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  あすへの話題-心の隙間 
 「この戦、勝ち目はないな」とつぶやいてサムライ達は最期の突撃に移る。文明開化の虚をつくかのように、滅び行くサムライの道に殉ずるかのように・・・。今ちょっとしたブームになっている映画「ラスト・サムライ」のクライマックスである。
 主役を演じるにあたりトム・クルーズは新渡戸稲造の「武士道」を読み返したという。新渡戸は、日本人の道徳観念の根底にあるものを説明しようと、キリスト教や騎士道とも比較しながら武士道を論じている。義、勇、仁、名誉、克己などいまなお心に響くものが多い。しかし、日本の近代化とともに、そして不幸な戦争もあって、それは廃れていったと考えざるをえない。
 新渡戸は第一版の序でベルギーの友人との会話を紹介している。「日本の学校に宗教教育はない」と言う著者に、友人は「宗教なし!どうして道徳教育を授けるのですか」。そしてその問いに答えるべくこの書を著したと述懐している。いま我々にこの問いに答える道徳規範があるだろうか。お天道様に恥ずかしくないようにという庶民の倫理も力を失っているし、国旗に誓ってと愛国心を振りかざすほどコンセンサスはないし、国際社会で胸を張って歩けるようにというのも背伸びしすぎている。日本人の心に隙間(すきま)があるような気がしてならない。隙間があると思いもかけないことが入り込んでくる危うさもある。親から子へ、教師から生徒へ自然にしかし断固として説かれる規範が求められている。
 教育基本法改正が議論されている。自由で公正な社会人としての意識の涵養(かんよう)、宗教の持つ意義の尊重なども俎上(そじょう)に上がろうとしている。実りある議論を期待したい。
日本経済新聞3月3日夕刊掲載
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