2000・8 Vol.37


「二十一世紀、日本の元気は地方から」        
竹 中
「私は、東京一極集中には絶対ならないし、  
してはいけないと思うんです。  
ぜひお願いしたいのは、地方の人がもっと誇りを   
持つことです。」

平 松
「地方も、自分たちで、誇りを持って住みやすい、
いい町を作らないといけませんね。地方は地方で、
いいものがあるわけです。」
 NEO対談 竹中平蔵+平松守彦



信用と自信の回復
       
       
平 松 竹中先生は、今日の日本、特に経済について、これからの日本の処方箋をお持ちだと思っています。以前から、ぜひ先生のお話を伺いたいと思っておりました。先生は、著書や講演で、日本経済の「信用の危機(コンフィデンス・クライシス)」ということにふれ、日本経済にとって将来へ向けた自信の回復が重要だと示されていらっしゃいますね。
竹 中 経済の基礎はお金です。しかし銀行の信用がなくなると、お金も経済も成り立ちません。平成9年から10年にかけて「信用の危機」、金融危機が起こりました。
平 松 金融の信用が崩れると取り付け騒ぎが起きるなど、社会に大きな混乱を与えることになりますね。
竹 中 銀行の決済システムの崩壊は最も避けなければならないことです。金融危機が一旦起きたら、やるべきことはただ一つ。資金を投入して預金者の信用を維持することなのです。それで、何十兆円という公的資金投入やゼロ金利政策が行われました。
平 松 それにより「信用の危機」は完全に解決されたのでしょうか。
竹 中 平成9年から10年の金融危機を脱し、日本経済は普通の不況の状態に戻ったと言えると思います。
平 松 日本人一人ひとりの「自信」はまだ回復されたとは言えませんね。
竹 中 実はそれが重要な問題なのです。戦後の日本の経済発展というのは世界史に残る快挙で、大いに自信を持つべきです。日本が発展できたことには三つの要因があります。一つは人を大事にしてきたということ。日本のような国土が狭い国で、国を支えるものは人的資源(ヒューマン・リソース)しかありません。次に新しいものを海外から謙虚に受け入れてきたこと。三つ目は、時代の変化に対応して、柔軟に制度を作ってきたこと。日本的な考え方というのは起源をたどってみると、意外にどれも新しいのです。
平 松 先生は、日本経済の実力を潜在成長率で説明されてますね。
竹 中 平成10年に設けられた小渕内閣の助言機関である「経済戦略会議」で、日本経済の潜在成長率について、有識者にアンケートを行った結果、多くが二パーセントから2.4パーセントの実力があると回答しました。
平 松 2パーセント成長が35年間続けば日本の所得水準が2倍になるという計算ですから、大きな数字ですね。この数字を示された先生は政治家よりもすごいと思いますよ。
竹 中 ありがとうございます。仮に成長率が2パーセントを切れば、所得水準を2倍にするためには50年、100年かかってしまいます。これでは先行きの希望がありません。今の子供たちの世代が、35年後には生活水準が2倍になるという夢を現実のものとするためにも、二パーセント成長というのは大切な数字です。
ソフト・パワー
       
       
平 松 先生は、先ほど、日本経済の発展の第一の要因として、人的資源を挙げられました。大分県では、一村一品運動や豊の国づくり塾などの活動を通じて、世界へ通用する産品づくりとならんで、ローカルに考えてグローバルに行動できる人づくりにも重点を置いて取り組んでいます。
竹 中 一村一品運動や豊の国づくり塾などは、地域特性を生かしたすばらしい事業だと思います。グローバル化が進む中で、競争に打ち勝つには強烈な個性と創造性が重要です。国際化が進むほど、純粋な日本の良さや個性を発見し、大切にすることが必要です。その意味で一村一品運動のように、故郷や自分の地域の良さを見直し活性化することは、とても大切なことです。
平 松 私はこれからの人づくりは、2カ国語を自由に話せる、バイリンガルな人材を養成することが大切ではないかと考えています。そこで、アジアにおける人材養成の拠点として、別府市に立命館アジア太平洋大学(APU)を誘致し、この四月に開学しました。学生の半分が日本人、半分がアジアを中心とする留学生で、授業は日本語と英語の両方で行われます。すでに250人の留学生が意欲を持って勉学に励んでいます。
竹 中 すばらしい大学と聞いています。
平 松 21世紀はアジアの時代です。この大学は、アジアの国々と日本が共生し、一緒に発展していくための拠点とも言えます。21世紀の地方の一番大きな問題は、少子・高齢化で農林水産業などの一次産業の人手不足です。地球温暖化の問題で最も大切な森を守り育てる林業の後継者がいなくなるわけですから、韓国の人やフィリピンの方が日本の林業をやり、中国の人が日本で農業に従事してもよいのではないでしょうか。この大学を卒業した人は母国に帰るだけでなくて、別府市で旅館を経営したり、ソフトウェア産業を興してほしい。日本の有為な人材にAPUの留学生になってもらいたいと考えています。
竹 中 すばらしいアイデアだと思いますよ。今、東アジアの国々と比較して日本に不足しているのが、国際的に活躍できる弁護士や会計士などの専門家、いわゆるソフト・パワーです。「英語力」や「情報力」などの知的な力を持ち、国際人として活躍できるAPUの卒業生は、地域のソフト・パワーの核的な存在となるでしょう。地域との交流を通じて国際感覚・意識を高揚させるなど、地域全体のソフト・パワーにも良い効果をもたらします。日本のソフト・パワーの向上のために、世界と競争できる高等教育機関の拡充、とりわけ大学の改革が急がれますが、大分県の取り組みは、それを先取りしたものと高く評価できると思います。
地方の元気は、日本の元気
       
       
竹 中 今世界で一番お金持ちと言われるビル・ゲイツ氏はどこに住んでるかご存じですか。ニューヨークには住んでないんです。彼が住んでいるのはシアトルです。シアトルは、アメリカの中で一番住みたいまち住みやすいまちコンテストで常に1位になります。本当に住みやすい所、すてきなまちに優秀な人材が集まってくるんです。人材が集まれば、21世紀型の産業ができるし、人材の集積で情報も集まります。
平 松 佐々木投手のいるシアトル・マリナーズの本拠地ですね。どうして、シアトルがそういうまちになったのでしょうか。
竹 中 まずシアトルは美しいまちであるということです。そして核となる産業がありました。航空機のボーイングの町だったのですが、ボーイングという最先端の産業の周りに新しい情報技術(IT)関連の産業がどんどん集まってきて、集積のメリットができたのだと思います。知的な労働者を魅了する美しさや快適さがシアトルにはあったということです。
平 松 ビル・ゲイツ氏に東京に住んでくれって言っても絶対住みませんね(笑)。大分に住んでくれって言ったら彼は、考えてくれるでしょうか。湯布院なんかいいですからね。
竹 中 そうですね、可能性はあると思いますよ(笑)。日本の地方のまちも、知的な人材が集まるまちになるように、競い合うことが必要です。
平 松 アメリカは、徹底した地方分権で、シアトルやダラスなどは特色のある地方都市です。日本はあまりにも中央集権になりすぎて、人間や情報、金融などすべてが東京に集中しています。
竹 中 日本も高速道路や新幹線、情報網などのネットワーク型のインフラ整備を進めることが重要と言えます。一律に公共事業を減らすと言うのは全く間違った議論です。道路をつくってもそれが全国につながってないと意味がありません。電話線も同じです。これらは国がやらないといけない。
平 松 日本でもアメリカのシリコンバレーのように新しいベンチャービジネスができる個性ある都市づくりを行わなければなりません。そのためには、道州制か連邦国家制というものを想定しながら、徹底した分権国家を作る必要があります。
竹 中 おっしゃる通りだと思います。経済戦略会議の報告書でも同様の考えを述べていますが、国がやるべきことはネットワーク型のインフラ整備や国防で、地方には自主的な徴税権を前提にした真の意味での自治を任せるというように国と地方の役割を整理する必要があります。そのためには、道州制をイメージして自治体の数を五百から千にするべきで、平松知事の意見に全く同感です。私は、そうすれば東京一極集中には絶対ならないし、してはいけないと思います。ぜひお願いしたいのは、地方の人がもっと誇りを持つことです。
平 松 地方も、自分たちで、誇りを持って住みやすい、いいまちを作らないといけませんね。地方は地方で、いいものがあるわけです。大分にも美しい自然や一村一品の美味しい食べ物もあります。地方分権というは決して地方の人たちが良くなるだけではなく、地域間競争で魅力ある都市を日本に増やしていくということです。
竹 中 国際都市としての東京の発展も重要ですが、地方の都市の発展はもっと重要だと思います。地方が自立性を回復し、独自の様々な地方文化が生まれてくるようにならないと、日本の元気は回復しません。
平 松 日本の元気回復は地方から、ですね。
竹 中 そうです。そのためにはモデルが出てこなければいけません。平松知事の大分県に期待しています。IT革命を地方から進めるためにも、やる気と能力のある人材を生かす環境を作ってはどうでしょうか。
平 松 デジタル化を進めるために障害になるものをすべて取り除いていくのですね。
竹 中 APUなどの大学がその核となっていけばよいと思います。そういうモデルをつくっていただきたいと思います。
平 松 先生には、APUでその辺りのお話を講義していただきたいですね。
竹 中 ぜひお願いします。
 
竹中平蔵(たけなかへいぞう)
慶應義塾大学総合政策学部教授・経済学博士 1951(昭和26)年和歌山県生れ(49歳)。73年一橋大学経済学部卒業、日本開発銀行入行。 大蔵省財政金融研究所主任研究官、大阪大学経済学部助教授、ハーバード大学客員准教授、米国 国際経済研究所(IIE)客員フェローなどを経て、90年慶應義塾大学総合政策学部助教授。96年 同教授。98年「経済戦略会議」メンバー、2000年「IT戦略会議」メンバーとなる。著書に『民富論』『早い者が勝つ経済』『経世済民ー「経済戦略会議」の180日ー』『ソフト・パワー経済』『ITパワー』(共著)『経済ってそういうことだったのか会議』(共著)など多数。サントリー学芸賞、エコノミスト賞受賞。