NEOOITA
2001・11 Vol.42
●特集
大分の「市場」はにぎやか
 取材・文・井上裕子 撮影・竹内康訓
産地直売が売り物の、昔ながらの「市場」が、近ごろ人気を集めている。新鮮で安い。作り手や売り手の顔が見えるから安心。そして何よりも、人がワイワイ集まってにぎわいのある雰囲気が心をそそる。
豊かな自然に恵まれた大分には、イキのいい”とれたて””作りたて”の海・山・里の幸がどっさり。素材を生かした伝統の手工芸品も多彩だ。個性のある県内の市場を訪ね、そこに並ぶ品のルーツをたどりながら、エネルギッシュな市場の魅力を探ってみた。

鶴見町豊漁祭は、とにかく新鮮で安い活魚が大人気。
 
 
「海の幸」の市場 鶴見町

つるみの朝市は早朝にも関わらず、魚目当ての客が集まる。
 大分県一の水揚げを誇る鶴見町の公設卸売市場。その広い建物を利用して、9月最後の日曜日、毎年恒例の「鶴見町豊漁祭」が開かれていた。豊後水道で揚がったブリ、アジ、イセエビなど新鮮な魚がずらりと並ぶ「お魚ふれあい市場」は、すごい人だかりだ。丸々太ったブリを袋に入れて抱えて帰る人、生きたイセエビを何匹も箱に詰め込んでいる人・・・・。
 市場の横には宅配便の車が横付けされ、今買った魚を氷詰めにして県外に住む家族や親戚に送ろうと、大きな箱を抱えた人たちが続々と詰めかけている。
 一段落したころ、ずらりと並んだいけすはどれも空っぽになっていた。干物の売場をのぞいたり、場内の大鍋で湯気を立てる海鮮汁や揚げたてのすり身の天ぷらを手にしている人も多い。港に浮かぶ漁船を眺めながら、獲れたての魚を放り込んだ味噌仕立ての温かい汁をすする。何ともいえず幸せな気分だった。
 毎月第1日曜の早朝、鶴見町の農水産物直売所前で開かれる「男の港つるみの朝市」も、新鮮な魚目当ての人たちが集まる市場だ。JAと商工会が参加しているので、活魚や干魚のほか、野菜、手作りの饅頭、パンなども並ぶ。
 朝6時半ごろ、魚屋が店開きすると同時に、早くも人が集まり始めた。豊後水道で獲れたカマス、ブリ、ハマチ、アジ、サバ、タチウオなど、トロ箱に入ったぴちぴちの魚が、トラックから次々と降ろされ、並べられていく。
 大分市を朝5時に出発して友達と買物に来たという主婦は、「安いと聞いて来たんだけど、ほんとに早起きして来た甲斐があったわぁ」と、両手いっぱい魚をぶら下げて帰って行った。家族連れで来ている町内の人も多い。お客でももてなすのか、大きなブリやアジを箱ごと買っている若夫婦の姿も見られた。
目の前の港で揚がったばかりの魚は、飛ぶように売れていく。
豊漁祭では新鮮な魚貝を使ったダイナミックな漁師料理も人気。
よほどのシケ以外は毎日漁に出るという篠原さん。

 市場に並ぶ新鮮な魚介は、地元の漁師が豊後水道周辺で捕獲してきたものだ。漁の様子を垣間見たくて、鶴見町沖合の大島の漁師、篠原満さんの船に乗せてもらった。伝統の「一本釣漁」で知られる大島のブリやタイは、関東の市場でも高値が付くと評判だ。その大島で中学卒業以来、62歳の現在まで一本釣の漁師を続けてきた篠原さんは、大島一本釣組合の中でも「名人」と言われる人である。
 この日は台風の影響か少し風が強く、慣れない我々を気遣ってくれた篠原さんは、波の少ない近場のポイントでヤズ(小型のハマチ)を釣った。普段は水ノ子島周辺の沖合いまで出て、タイ、イサキ、ブリなどを釣るという。今朝釣ったという生きたゼンゴを餌にして、糸を垂らす。指先で”あたり“を見る一本釣は、技術と経験、それに勘を必要とする漁法だ。 「昔はハマチを一日70何匹も釣ったもんだが、最近は魚が少なくなったなぁ」。乱獲と温暖化による水温上昇のせいだろうと、篠原さんはちょっとため息をついた。
最近の漁船は設備が整い、もいくらか楽になった。
 10月5日、大分全日空ホテルオアシスタワーで開かれた「豊の魚一村一魚フェア」には、県南の魚をはじめ、県内各地の”地元の魚“が一同に並んだ。県民に大分の魚をもっと知ってもらおうと開催されたもので、上浦町のサザエのエスカルゴ風、鶴見町の豊の活ぶりバスケーズなど、洒落たネーミングの料理をはじめ、多彩な魚料理の数々が披露されている。「県内でこんなにいろんな魚が獲れるんだ・・・」というのが正直な感想だった。輸入ものの冷凍魚などに手を出す前に、例え小魚でも新鮮な地元の魚をもう一度見直してみたいと思った。
「豊の魚一村一魚フェア」では県内各地のバラエティ豊かな魚料理に舌鼓。
 
 
 
 
「里の幸」の市場 緒方町

三宮さんたちは娘さん一家をはじめ10人の大家族。
 「緒方5,000石」の米どころとして知られる緒方町は、田んぼのあちこちで作られる水田里イモが特産品だ。柔らかくて粘りが強く、煮くずれしないと評判の「エグイモ」と呼ばれる品種で、主に関西方面に出荷され、人気が高い。
 「道の駅 原尻の滝」では、秋も深まるころ野菜市場に堀りたての里イモが並び、町外から訪れた観光客がこぞって買って行く。道の駅内にある「レストラン 白滝」では、名物「ふるさと弁当」の秋のメニューに里イモが登場。 だんご汁や里イモの煮付けなど定番の料理以外に、里イモ入り卵豆腐、ポテトチップならぬ里イモチップなどのアイデアメニューも。旬の堀りたてイモで作る料理は、むっちりとした特有の感触が食欲をそそる。
 この緒方名物の里イモを栽培している農家の人たちを訪ねて、美味しいイモ作りへのこだわりを探ってみることにした。
 三宮重康さん・房代さん夫妻は、米を主体に、減反分には里イモを作り、牛4頭・子牛3頭も育てる畜産農家である。土には自家製の牛の堆肥をたっぷり入れる。「1年分の牛の堆肥を里イモにつぎ込んでますよ」 と三宮さん。堆肥の入った土は地味がよく保水力も十分。化学肥料だけで育てた作物とは格段に味が違う。
 黒毛和牛の産地でもある緒方町では、以前はどこの家でも牛を飼っていたが、今は三宮さんたちが住む上自在地区でも、60数軒のうち畜産農家はわずか5軒になった。牛の糞は貴重な肥料なのである。
緒方では水路のあちこちに風流な水車が見られる。田植え時には今なお現役で活躍しているものも多い。

合沢さん夫妻と、農業の大先輩であるお父さんの五美さん。
水田にはさまれた合沢さんの里イモ畑。里イモは連作を嫌うので、里イモを1年植えたあと米を2〜3年植えるという。
地元の里イモがずらりと並ぶ、道の駅の野菜市。

 里イモは丸くて大玉が市場で高値が付くため、三宮さんたちも「大玉・丸イモ」作りに精を出す。私たちが訪ねたときは、里イモの収穫にはまだ早かったが、三宮さんは1株掘り起こしてくれた。真っ黒な土からころころした丸イモが鈴なりになって出てくる。「まだちょっと小さいけど旨いよ」と、三宮さんは自慢の里イモを箱いっぱいわけてくれた。
 野仲地区に住む合沢伸彦さんは、4年前に50歳で会社を早期退職し、お父さんの五美さん、奥さんの洋子さんと共に農業を営んでいる。五美さんは今から21年前、緒方町が減反対策の切り札として里イモに力を入れ始めた当初から、里イモ作りに 取り組んできたひとりだ。
 合沢さんは、畜産農家から分けてもらう 堆肥と、米ぬかを使って作るボカシを併用している。「化学肥料や農薬をできるだけ使わず、地球と人間環境にやさしい低コストの農業を心がけています」。退職後から本格的に農業を始めた合沢さんは、今、自らめざす農業に燃えている。「手入れしていい物ができた時は本当にうれしい」とにっこり。思い入れのこもった里イモを私たちも分けていただいた。
 三宮さんと合沢さんにいただいた里イモを煮付けにしてみた。どちらもむっちりと粘りがあって、とろけるように柔らかい。あまりの美味しさに、思わず周囲に手当たり次第おすそ分けしてしまった。
 祖母・傾と九重の山々に抱かれた緒方町は伏流水に恵まれ、昔から「緒方に水涸れなし」と言われた所。この豊かな水と牛の堆肥を使った土が、いい里イモを育ててきた。ところが最近は、中国産の安い野菜が出回ったり消費の減退で単価が低迷し、農家の高齢化問題にも悩んでいる。今年からは従来のエグイモに加えて、早く出荷でき「大玉・丸イモ」率が高いブンゴサトイモにも取り組み始めた。
 11月下旬には、里イモをはじめ地元の野菜やシシ肉を入れた「さぶろう鍋」を河原で囲む「さといも交流大会」が恒例だ。緒方の里イモは、これからが最盛期。あのとびきりの美味をたっぷりと味わいたいものだ。

だんご汁には地元の里イモがたっぷり入る。


レストラン白滝のアイデアあふれる里イモ料理の数々。