NEOOITA

2002・2 Vol.43

”交流と共生”の道歩もう

特別企画  マハティール首相に聞く

マハティール・モハマド マレーシア首相
平松 守彦 大分県知事
坂本 和一 立命館アジア太平洋大学学長
田辺 正勝 大分合同新聞社取締役編集局長
(マレーシア首相府にて)


東アジアは何を目指すか
田 辺 最初に(1)東アジアの針路(2)東アジア地域における共生と交流(3)人材の育成―の3をまずお尋ねしたい。いま経済・金融の分野で急速にグローバル化が進んでいる。首相は「行きすぎたグローバル化」の動きに警鐘を鳴らしておられる。東アジア地域がこれから進むべき方向は。何を目指していけばいいのか。
首 相 東アジアの発展は、各国がお互いに親密な関係を築いていくことが前提だ。経済グループを形成することも大切。単独では欧州や北米に対抗できない。ただ、欧米と違って、東アジアの国々はそれぞれ異なったアイデンティティー(国や地域、民族としての自覚)を持ち、違った文化、歴史の上に成り立っている。世界経済は統合に向かっているが、国のアイデンティティーは失ってはならない。
田 辺 グローバル化に伴い、国家の概念も変わりつつある。国と国との関係に限らず、地域間レベルでも「交流と共生」がキーワードになってきた。首相が提唱しておられるEAEC(東アジア経済会議)構想も「交流と共生」の精神が基調にあると理解する。マレーシアと大分県は、一村一品運動などを通じて10年以上の交流の歴史がある。今後、お互いに何をしていくべきと考えているか。
首 相 確かにグローバル化の波は押し寄せているが、国民国家としての主体はしっかりと維持すべきだ。そうしないと、力のある国が力のない国を支配する。国境を尊重し、お互いの利害が対立しないような方策を、各国が自らの意思で決めることだ。先進国は発展が遅れている国に援助をすることを心掛けるべきだ。地域に貧困が存在すると、その地域全体の繁栄に影響する。貧しい国を支援していけば、自国はもとより地域全体が良くなる。大分県との交流の発展は大いに歓迎している。


どう取り組むか人材育成
田 辺 次に人材育成だが、2000年春に立命館アジア太平洋大学(APU)が大分県にできた。学生の半数はアジアを中心とした海外からの留学生であり、卒業生たちがアジアの将来を担うことになる。東アジアの発展に必要な人材の育成にどのように取り組むべきとお考えか。
首 相 人材育成とは個々人の知識や環境への適応能力を高めることだ。だからIT(情報技術)の活用にも力を入れている。
平 松 首相は10年前、EAEC構想を発表した。わたしは国と国との関係はと考えている。1997年に起きたアジアの通貨危機を経て、首相の構想が国際社会で支持を得てきた。EU(欧州連合)に対抗してAU(アジア連合)を構築し、1つの通貨圏を形成すべきと思うが。
首 相 単一通貨の実現には時間がかかる。EUの共通通貨「ユーロ」がどうなるのか、動向を見守っている。同時に世界的な経済の動きも注視していかなければならない。現在のグローバル化は資本の自由な移動のみを強調している。大量の資本が一国に入ってくるのは好ましいが、突然、一斉に引き上げられると一大事になる。これがアジアで起こった通貨危機だ。急激な資本の流出を止める規制が必要だ。グローバル化で大切なのは、国の経済が強くなれるかに焦点を当てるべきで、だれが、どれだけ、もうけたかではない。
平 松 通貨危機に際して首相が示した、き然とした態度は高く評価されている。一方、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟して、ASEANプラス3(マレーシア、タイなど東南アジア10カ国と日本、韓国、中国)による貿易の自由化が現実的になってきた。AUのアイデンティティーや多様性を考える上で、今後は国同士よりも地域間交流の方が重要になるのでは。
首 相 文化的アイデンティティーの面で、お互いにもっともっと知り合う必要がある。人々は長い歴史の中で文化を継承してきており、文化を変えるのには大変な時間がかかる。弱い国の文化的アイデンティティーを強い国から守るため、時間がかかっても成功事例から学ぶ必要がある。だからルックイースト(東方政策)を採用したのだ。大分県との交流も目的は同じだ。
平 松 アジアの若い世代が一緒に学び交流する場としてAPUを誘致した。お互いの文化についてキャンパスで議論することはとても有意義なことだと思う。
坂 本 首相にはAPUの国際名誉アドバイザーになっていただき、APUは順調に進んでいる。64の国・地域から900人の留学生が集い、日本人学生とともに生き生きと学んでいる。マレーシアからも20人きている。グローバル化と各国のアイデンティティーの双方を重んじるのがAPUの理念だ。経済の成長力や文化的情報の発信力から、21世紀はアジア太平洋の世紀と言っても過言ではない。APUは今後、必要な人材を育成する上で役立ちたいと思っている。


今、アジア太平洋の時代
平 松 首相からの要請を受け1991年にケダ州を訪問した。それ以来、地域リーダーの相互訪問などケダ州と大分県の一村一品交流が続いている。その成果は着実に出ている。引き続き様々な交流を行い一村一品運動で地元経済に貢献したい。日本では今、飼料が原因と考えられる牛の病気が大きな問題となっている。マレーシアと大分県の交流を通じてケナフの畜産飼料としての活用を研究したい。
首 相 クアラルンプールでケナフの栽培や加工が盛んに行われている。よろこんでお手伝いさせていただきたい。
平 松 マレーシアでは新興電脳都市サイバージャヤを建設中だが、大分県でも”電子政府“の構築を進めている。ITを利用した双方向交流を活発にしていきたいと思っている。一村一品の生産動向や各種開発への取り組み、学術交流などに活用したい。
首 相 実は、サイバージャヤには研究所やデータバンクなど3機関の設立を計画している。特に力を入れたいのがバイオ。マレーシアは動植物の生態が多様であり、その保存、発展のため遺伝子レベルの研究を進めたい。
平 松 一村一品運動は人づくり。その目標は”Think Globally、Act Locally“(グローバルな視点で考え、行動は地域に根差して)にある。首相はグローバリゼーションに反対しているようだが、わたしは「グローカリゼーション」を提唱している。
首 相 私はグローバリゼーションに反対しているわけではない。資本の自由な移動のみに目を向けがちな風潮を非難しているのだ。各国のいろんな利害が対立するので、グローバル化は一筋縄ではいかない。
平 松 地域がそれぞれの特色を発揮しながら調和し、1つの圏域として発展していくのが望ましい。そのためにアジア太平洋学の研究が必要となってきた。
坂 本 APUのキャンパスはまさにその理念で動いている。APUのカリキュラムはアジア太平洋学、すなわち「アジア太平洋の時代」の創造を目指した戦略学、政策学に基づいている。ポイントは2つ。1つはアジア太平洋地域の社会や文化、生態的多様性に対して理解を深める「地域研究」。もう1つはアジア太平洋地域でグローバル化が進む中、地域全体が直面する共通の課題解決に迫る「地域政策学」だ。



坂本学長

田辺編集局長

平松知事

マハティール首相



テロの根源に何があるか
首 相 私から話題を変えても良いでしょうか。世界中でテロや紛争が絶えない。その原因の1つは富の分配の問題だ。億万長者がたくさんいる国もあれば、一方では日々の食べ物に困る国もある。グローバル化を語る時、語られるのは豊かな国のことばかりで、貧しい国のことには関心を示さない。豊かな国はさらに豊かになるばかりだ。今後も貧困は絶えない。大分の人たちにも、一村一品運動などを通じて貧しい国に関心を持ってほしい。
平 松 ぜひ、そうありたい。ただ、一方では中国の安い農産物が日本に入り、国内の生産者が苦しんでいる事実もある。中国が品質向上に励むこと自体は良いことだ。今後はお互いに良いものを作り、競い合いながら共生の道を探るべきだと思う。農業、工業の両面で共生・共存の道を探るのが一村一品の目指すところ。何事にも意欲的な人材を育てていくことが重要だ。
首 相 交流を通じて日本の工業技術だけでなく、国民の勤勉さにも学ばなければならない。それが「ルックイースト」の哲学だ。
田 辺 首相が学ぶべき「お手本」としてきた日本は、今でも「ルックイースト」の対象としての価値があるか。日本に不満な点はないだろうか。
首 相 学びたかったのは(終身雇用制度や官民協調といったシステムを大事にする)日本の本来の姿。だが、最近の日本は自ら固有の文化を捨て、欧米の影響が強くなってきた。欧米の文化を学びたければ、わたしたちは欧米に行く。それでもわたしたちは、日本から目を離さないでいる。日本が犯す過ちを繰り返さないように。(ニッコリ笑って)反面教師として。
平 松 同時多発テロに対する米国の報復攻撃について、首相は国連などとは異なった見解を示しているが、その根拠は。
首 相 このままでは無実のアフガン人を殺すことになる。テロリストは世界中にいる。アフガニスタンを完全に破壊したところで、テロを根絶したことにはならないし、報復攻撃は彼らをさらに怒らせたかもしれない。テロを解決するには、何が彼らをテロに向かわせるのかを分析することが先決。この世に正義ではなく不正義があることを彼らは信じて疑わない。問題を根本から解決しない限り、彼らは自らの命を賭(と)してテロを続けるだろう。
坂 本 日本は今、何をすべきか。
首 相 テロの背景にあるものを、もっと浮き彫りにすること。そしてテロを起こす貧しい国の人たちを救ってあげることだ。
田 辺 有意義なお話をありがとうございました。首相の健康とマレーシアの発展を、心からお祈りします。
 
会見終了後、平松知事と坂本学長はマハティール首相に大分県への招待状を手渡した。「ワールドカップの際に来県していただければ、一村一品の取り組みを詳しく紹介したい」と平松知事。坂本学長は「首相にお会いできれば、留学生たちにとって大変な励みになる。ぜひ、アジアの未来について、APUで講演して欲しい」と要請した。
(資料提供 大分合同新聞社)
 
※マレーシア 国土面積約33万平方キロメートル(日本の0.9倍)。人口約2,3000万人。人種はマレー系が61%、中国系30%、インド系8%。イスラム教徒が多い。かつては天然ゴム、スズ、パーム油などが輸出の中心だった。近年は日本の家電メーカーなどエレクトロニクス産業が進出している。首都クアラルンプールの南25キロに、新行政都市「プトラジャヤ」を建設中。既に首相府や外務省が移転している。
 

マハティール・モハマド首相
1981年に4代目の首相(任期5年)に就任。在任期間20年を超える、アジアのオピニオン リーダーの1人。75歳。東アジアの連帯と協調を重視、「ルックイースト」や「EAEC構 想」などを通じて、欧米に対抗できる独自の経済圏づくりを呼び掛けている。97年の通 貨・経済危機を乗り切り、2001年には「ビジョン2020」を発表、2020年に先進国入りを目 指す。「勝者(富める国)が勝ち続け敗者(貧しい国)が負け続ける」大国主導のグローバ リゼーションに異議を唱える。


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