NEOOITA

2002・4 Vol.44
 
特別鼎談 志村ふくみ・イヨンヒ・平松守彦
アジア文化交流の幕開け



平松 守彦

志村 ふくみ

イ ヨンヒ


着物と韓服、風の出会い
平 松 いよいよワールドカップサッカーが六月に大分で開催されます。私は、これを契機に日本と韓国の文化の交流が盛んになることを期待しています。
 今回、紬織りの人間国宝志村さんと、民族衣装の現代風のアレンジなどで国際的に活躍されている韓国のトップデザイナーのイヨンヒさんが、大分の地で共同展覧会を開かれました。お二人の出会いや展覧会開催のいきさつをお聞かせください。
志 村 二年半前に、ソウルで着物の展覧会をしないかというお誘いがありました。それまでは、韓国では、日本文化を持ち込むことはタブー視されていたのですが、着物のすばらしさを伝えたい一心で全力をあげて取り組みました。そうしたら、思いがけず多くの皆さんが大歓迎してくださいました。その時に初めてイヨンヒさんにお会いし、お話をするうちに素晴らしい芸術家であると同時に、時代を認識した新しい仕事を未来に向けて進めておられる方だと思いました。
 今、ヨーロッパを中心に東洋文化が注目を集めています。私は、十年前から韓国の文化を西洋に知らせるためいろいろな活動を行ってきました。その中で、志村さんというすばらしい方にお会いできました。今回、ワールドカップサッカー共催をきっかけに一緒に仕事をしないかというお話があり、喜んでお引き受けしました。
平 松 志村さんには、以前、大分の豊後梅を使って染めていただきました。また、一つの茎に情け有るという、『一茎有情(いっきょううじょう)』という著書もありますが、日本と韓国、育った風土が違うと同じ植物で染めても色が違いますか。

イ ヨンヒ作 貴族の外出着
志 村 韓国で実際に染めて欲しいと要望がありましたので、ソウルの山で、色々な植物を採取して、染めてみました。日本と同じ植物もありましたが、思いがけない色が出ました。この試みは評判を呼び、互いに布や染料を交換するなど大変盛り上がりました。色には風土が深く関わっているのだと実感する出来事でした。
平 松 イヨンヒさんは、十年前からパリコレクションに出品されていますが、韓国の鮮やかな原色から、色の取り合わせか方が徐々に変わってきたのではないですか。
 パリなどに出品する時は、その時代の流行に合わせた色を出さなければなりません。一方で祖国の色、伝統の色をパリの皆さんにも知ってもらいたいという思いもありますので、組み合わせを工夫します。
平 松 なかなか難しいところですね。今ヨーロッパは、欧州連合(EU)で一つの通貨に統合されつつあり、また、文化も例外ではありません。そのヨーロッパで東洋の色とか、東洋の草木染めの文化が通用するというのは素晴らしいことですね。


人間万事塞翁が馬
平 松 イヨンヒさんは、全ての色を包容する灰色がもっとも好きだと伺いましたが。
 灰色は仏教の世界で最も高貴な色です。韓国の文化は仏教から出てきたものが大変多いのです。
平 松 今日着ていらっしゃる服もとても綺麗な灰色ですね。何で染めたのですか。
 瓦です。擦った瓦の粉で染めています。昔の瓦でないと駄目なんですよ。

志村ふくみ作 猩猩菱
平 松 それでこんな色が出るんですか。
 染め物の色は、染める人の心持いかんによって全く違うものになります。誠意を込めないと良い色が出てきません。
志 村 本当にそうです。同じ植物でも人によって違った色が出て来るんです。これはもう不思議ですね。
平 松 なるほど。そういうものですかね。
 間違ったと思っても、その色が後で評判になることもあります。悪いと思ったのが、後になっていいものになる。それを中国の故事成語の塞翁之馬のようだと言っています。
平 松 人間万事塞翁が馬。禍福はあざなえる縄のごとしですね。
志 村 草木染めに間違った色はないんです。自然界に間違った色などないのと同じです。


次代を担う子どもたちへ
平 松 最近大分でも草木染めをする人が増えてきていますが、染める際の心構えをお聞かせ願いますか。
志 村 自然はこのまま放っておけばどんどん後退し、滅んでいきます。自然の恵みによって私たちが生きているということ、自然の生命力を学ぶことを草木染めを通して知ってもらいたいですね。私は、特に若い人たちにこれを伝えていきたいと思っています。
平 松 草の情け。一茎の、「一色一生」の色ですね。やはり子どもの時から関わっていくことが大切だと思いますので、機会があれば大分の子どもたちにも教えていただきたいですね。
 若い時に、自分の手で色を染めたり、自らの体温で感じることで創意力が養われます。大人になって単に紙の上でデザインしている人と、子ども時に自分で経験した人とは、感性が違います。私が、現在こういう仕事をしているのは、子どもの時にそういう体験があったからこそだと思うのです。
平 松 ワールドカップが終わっても草木染めの第一人者のお二人に、大分県でまた展覧会や創作指導を行っていただきたいですね。そうすることで、草の根の日韓文化交流が図られると思いますので、今後ともご指導をお願いします。

 

志村 ふくみ(しむら ふくみ)
染織家、重要無形文化財保持者、文化功労者
京都府生れ
1942年文化学院卒業
草木染めによる豊かな色合いで独自の分野を開拓した紬織りの人間国宝。文筆家としても、1983年「一色一生」で大佛次郎賞を受賞。他に「一茎有情」、「語りかける花」等著書多数。


イ ヨンヒ
服飾デザイナー、イヨンヒ韓国衣裳代表
大韓民国大邸市生れ
1977年イヨンヒ韓国衣裳オープン。伝統衣装韓服の古典的素材色合いを基調としながらも、全く新しい韓服を生み出す韓国のトップデザイナー。パリコレクションへの出品をはじめアメリカ、イタリア、北朝鮮など世界中でファッションショーを展開。ソウルファッション人賞、大韓民国デザイン大賞等受賞歴多数。


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