| チャンスは練って待て |
| 知 事 「急ぐな。味が逃げる」というのも面白い言葉ですね。 |
| 村 上 フランスで修業しているときにアンリ・ル・ジュールという料理長からもらった小言です。 |
| 知 事 あまり急ぐと味が逃げるから、ゆっくりやるようにという意味ですね。 |
| 村 上 フランスのシェフたちは、味を閉じこめるために技量を駆使して仕上げます。そうしなければ味が逃げてしまいます。お客様は、「早くしろ」という苦情は全くおっしゃいませんし、おいしい料理を待つのを楽しみにしています。 |
| 知 事 四年前、南フランスのモンペリエ市を訪問し、そこから有名なカルカッソンヌ城を自動車で見学し、そばのフランス料理店でのレセプションに出席しました。飛行機の出発までの時間を利用して城の見学をしたかったものですから、食事を三十分ぐらいの簡単なものにして欲しいとシェフに掛け合ってもらったのですが、一時間はかかると言われて時間を縮めてもらえませんでした。それでとうとう、お城を直に見ないまま飛行機に乗って帰ってきたんです。「急ぐな。味が逃げる」の教えに忠実なシェフだったのでしょうね(笑)。 |
| 村 上 そうだと思います。フランス人は時間をかけて食事をすることが一番幸福だと考えていますから。 |
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知 事 日本料理でも同じようなことが言えるかもしれません。今、スローフードといって食文化や食習慣が見直されていますが、みそ汁やどんな料理でも、手間暇かけて、素材からきちんと作らなければ本当の味が出ません。 |
| 村 上 時間をかけて、そしてタイミングを取りながら、お客様のお皿が下がってきてから次の料理の盛り付けをやってすぐにお出しする。私は、これが一番いいサービスだと考えています。 |
| 知 事 その辺が難しいところですね。 |
| 村 上 前のお皿が下がった瞬間、次の料理が出てくるというのはタイミングが良すぎます。前もって盛り付けをしているのかもしれません。冷めないうちにおいしく召上がっていただくためには、多少待っていただくことになります。 |
| 知 事 大分県の知事になる前東京に居たときに、帝国ホテルで一番印象に残っているのがバイキング料理です。村上さんが日本で初めて考案したものだと知ってびっくりしました。 |
| 村 上 今から四十四年前です。 |
| 知 事 あの頃、よく食べに行きました。 |
| 村 上 ありがとうございます。 |
| 知 事 あれはどういうところから生まれてきたのですか。 |
| 村 上 私がパリのリッツホテルで勉強していたときに、北欧にこういう料理があるから、勉強してこいと当時の社長から直々に手紙を受けました。それで、デンマークのコペンハーゲンのレストランに飛びました。 |
| 知 事 デンマークはバイキングの国ですから、それでバイキングなんでしょうか。 |
| 村 上 スモーガスボードというのが正式な名前ですが、日本では当時まだ知られていませんでしたので、従業員から名前を募集しました。その中にバイキングというのがありました。その頃、海賊映画の「バイキング」が上演されていて、船上で飲み放題、食べ放題のシーンがありましたので、それがヒントになったようです。 |
| 知 事 日本人の好みに合ったんでしょうか、大ヒットでしたね。待たずにおいしい料理が好きなだけ食べられるわけですから |
| 村 上 大衆消費時代の波にも乗って、大好評でした。「チャンスは練って待て」が私の座右の銘です。「果報は寝て待て」のもじりです。私の幸運なコック人生は料理と同様に、じっくり準備し、努力した結果だと思っています。 |