目次 特集 Preserve Nature 「自然保護」ってなんだろう?
おおいた文学紀行 「雪の夜」−織田作之助
先人の軌跡 横田穰−日出生台植林の父
- 1 - 2 - 3 - 4 - 5 -
- 1 -
- 1 -
VientoのTOPへ

身近な植物たちに目を向けいとおしく思う。
そこから自然や環境のことが見えてくる。
野山を歩けばたくさんの発見があって小さな草花の中にも物語があることに気づく。
自らの五感でしっかりと自然を感じ植物たちと対話するよろこび。


荒金 正憲(あらかね まさのり)さん 荒金 正憲
野生植物研究家。1925年、別府市生まれ。45年、大分師範学校卒業。別府市立中学校教諭や県教育庁、別府市教育庁勤務などを経て、別府市内の中学校教頭、小学校校長を歴任。86年、別府大学短期大学部教授・同附属幼稚園園長。98年、退職。2000年、別府大学短期大学部名誉教授の称号を授与される。2003年、50余年に及ぶ県内野生植物の調査・研究の成果をまとめた『豊の国大分の植物誌』刊行。現在、大分県植物研究会会長、別府生物友の会会長。

写真
立石池のあぜで、荒金さんから池の植物たちの話を聞く。緑の中で、みんなの表情もすっかりリラックス。

写真
ひっそりとした立石池。水量の少ない時期は池の周囲を歩いて一周できるという

写真

写真
「どれどれ、私もムカゴ食べてみようかな」。山で味わう秋の味覚は、最高の贅沢。
 『植物たちと語る』。しゃれたネーミングの市民講座である。別府市在住の野生植物研究家、荒金正憲さんが講師を務めている。生涯学習施設「別府市ふれあい広場・サザンクロス」が主催し、今年16年目を迎える人気講座だ。今年度の講座生は67人。60代の女性が大半を占めるという。野山の植物たちと出合い、触れ、語り合いながらじっくりと付き合っていこう、という会である。
 秋の始まりに催された観察会は、湯布院町と九重町の境にある古い池・立石池のあぜや九重山麓の森を歩く企画。朝9時、集合場所の小田の池バス停に参加者37人が歩き慣れたいでたちでやって来た。
 最初に荒金さんから、小田の池や隣の山下池、そしてこれから歩く立石池について、池の成り立ちや植生についての簡単なレクチャーのあと、立石池のあぜへ。小径を歩くと足元のあちこちに小さな草花が咲いている。黄色い小花をいっぱいつけたキンミズヒキ、楚々とした青紫のヤマハッカ、ツクシアザミ、ダイコンソウ等々、名前は覚えきれないが、それぞれに個性的で愛らしい。
「ちょっとこの花見て。なんでもないけど、物語があるのよねぇ」
 ルーペで花をのぞいていた女性が、ほら、と見せてくれた。花の細部がクローズアップされると神秘の世界が広がる。
 向こうでは道ばたでヤマイモを見つけたグループが大騒ぎしている。
「ムカゴがいっぱいよー」
「それ、そのまま食べられるの!?」
「うわっ、ねばねばするけどおいしい」
 自然の恵みを分け合って季節を満喫するのも、野山歩きならではの楽しみだ。
 そうこうするうち、水辺に到着。標高850mの立石池は、あぜにヨシが茂る静かなこぢんまりした池である。
「いつもなら今ごろは池のあぜに淡紫のコバギボウシの花がいっぱい咲くんじゃが、今年はこんなに水が多いから花の姿が見えんなぁ。どうしよんのかなぁ」と荒金さん。「同じ場所でも年によって状況が違うから、植物たちはそのときに合わせた生活をして生命を保っている。そんなことを考えると、すごく愛おしいね。自然保護なんていうともったいぶった感じがするけど、そんな気持ちが自然保護につながるんじゃないかな」
 また来てみよう、と誰かがつぶやいた。
写真 写真 写真 写真 写真 写真
歩きながらほんの少し目を凝らすと、可憐な花々が次々と見つかる。関心がない時は目に入ってこないのに、不思議。
写真
幹の周囲を巻き尺で計ってみると、なんだかこの木に親しみが湧く。

写真
標高800m余りの林は、風が少しひんやりとする。小川を渡り、緩やかな坂道を上がって。

写真
「これ、何の木かなぁ」「葉っぱに切れ目があるわね」「うーん」。手で触れてみたり、匂いを嗅いでみたり。林の植物たちが身近な存在になる。
 次は車で少し移動して、地球上で大分県だけに生育するという「ツクシボダイジュ」の木を見に行く。それは九重町野上の日野卓司さん宅のすぐ裏にあった。昔はこの木の樹皮をはいでロープ用の繊維を取っていたそうで、一度切ったところから芽が出て、高さ20m以上はありそうなすらりと美しい木に育っている。男性たちで幹の太さを計ってみる。日野さんが切り落としておいてくれた枝には、左右非対称のハート型をした葉っぱや丸っこい実がたくさん付いていて、今日の記念にとみんな大事そうに葉や実を持ち帰った。日野さん宅でいただいたお茶と漬け物の美味しかったこと。こんなに間近に見た、大分ならではの植物。押し葉にしたくて1枚いただいた変型ハートの葉っぱ。ツクシボダイジュはきっと忘れられない木になりそうだ。

 午後は少し離れた九重町寺床の林でじっくり木々を観察する「植生調査」が始まった。調査といっても堅苦しいものではなく、林の中に10×15mのロープを張って枠取りし、5mおきに印をつけて、一定面積の中にある木を高さ別に、これはコナラ、これはシラキ、ミツバアケビ・・・というふうに見ていくのである。
 木の名前を知らない人間には難しい作業であるが、そこはふだんから植物たちと“語り合って”いるメンバー、みんななかなか詳しいのに驚く。それでもわからない木は「荒金先生〜!コレ何ですかぁ?」と葉っぱを持って走ったり、お互いに教え合ったり。図鑑を引っぱり出して見る人、写真を撮る人、メモを取る人・・・「調査」とはいえ、みんな思い思いに林を楽しんでいる姿が印象的だった。「この講座に通い始めて、今まで見過ごしていた道ばたの草がかわいく思えるようになり、いろんな発見があるんですよ」「毎回何か一つでも花の名前を覚えて帰れたら楽しいのよね」。終了後、そんな声を多くの人から聞くことができた。
「道ばたや田んぼにある植物たちに関心を持ち、自分なりに問いかけをしてみるだけで、身近な自然から学ぶことはたくさんある。植物たちは自然環境と結びつきながら生育しているので、植物を介して自然や環境のことが見えてくるんです」と荒金さんは言う。
 自然の中に一歩足を踏み入れること。自分の手で触れ、匂いを嗅ぎ、目でじっくりと見て、何かを感じること。そこから自然との対話が始まる。
写真

写真
木のてっぺんが見えないほど高く伸びたツクシボダイジュ。

写真
みんなで手分けをしてロープを張る。「ありゃ、ゆがんでるぞ」「意外に難しいなあ…」

写真
写真
ツクシボダイジュは秋になると葉っぱの付け根にこんなかわいい実をつける。
別府市ふれあい広場 サザンクロス主催講座
『植物たちと語る』植物観察会の一日
「池の顔ぶれと九重火山山麓の森」
9月21日(日)
9:00
写真  湯布院町小田の池バス停前に集合。車に分乗して九重町との境にある立石池へ出発。
9:30
 立石池近くに車を置き、植物を観察しながら池までの小径を歩く。
11:00
写真  車で九重町野上へ移動。日野卓司さん宅の敷地内に生える珍しいツクシボダイジュを観察。幹の太さを計り、葉っぱや実を持ち帰る。お茶と漬け物をいただいて一息。
12:00
写真  車で九重町寺床へ移動。林のそばで昼食。
13:00〜14:30
 林を歩き、木々を観察。林内にロープで枠取りし、その中に生えている木を手分けして調べながら、林を構成する植物たちのことを知っていく(植生調査)。
15:00
写真  小田の池バス停にて解散。

<連絡先>
別府市ふれあい広場 サザンクロス
TEL 0977-25-3396
地図


←戻る | 次のページへ→