対談 御手洗冨士夫 キヤノン株式会社社長  広瀬勝貞 大分県知事
県政広報番組 TOS「ほっとはーとOITAスペシャル」
大分県ならではの魅力を生かした新しい「地方」づくりに向けて

環境問題が新たな技術を育てる
広 瀬 私は日田市の出身、御手洗社長は蒲江町の出身です。私にとって故郷は幼いころの自分をつくる運動場のようなところで今もとても大事なものですが、御手洗社長にとってはいかがですか。
御手洗 私も山を走り回り、夏休みは一日中海で遊んで、町の一部のような感覚で育ったので、今でも蒲江に帰ると原点に返ったようで落ち着きます。喧噪の中で仕事をしている自分から解き放たれリフレッシュして、またエネルギーを積み上げていける。そんな作用がありますね。
広 瀬 大分県は本当に自然に恵まれた所なので、これをしっかり守って生かそうと「ごみゼロおおいた作戦」を展開し、きれいな大分県をつくりあげたいと考えています。キヤノンには県内三つめの工場を造っていただくわけですが、工場建設に当たって環境を大切にと厳しく命じておられると伺いました。やはり故郷蒲江からの思いがあるのでしょうか。
御手洗 豊かな自然環境の中に育ったので、自然に対する思い入れはあると思います。環境をできるだけ壊さないよう工場を造る、やむを得ず壊したものは修復してできるだけ自然の形に戻したいという気持ちは強いですね。環境問題は世界中の、人類最大の、しかも永遠のテーマです。工業化に伴って自然を破壊するのは仕方ないとしても、必ず元に戻す努力をしなければなりません。また環境問題は省資源と結びついていることが多い。大分キヤノンマテリアルで使う水は生活用水も含めて100%敷地内で浄化しリサイクルしています。水資源を無駄にせず、有害物質もまき散らさず、コスト面でも助かります。
広 瀬 環境問題は技術問題ですね。ごみゼロ運動もリサイクルの技術を導入する必要があり、そこにまた新しい産業の芽が生まれる気がします。
御手洗 これからは複写機などの機械もリサイクルしやすいよう設計の段階から考えていく。それも技術だと思います。捨てることが環境破壊を起こすから、初めから捨てる部分を徹底的に少なくする。自然に分解して有機物を作るプラスチックがありますが、今後はそうしたものを作っていかなければならない。コストはやや高いが技術でだんだん安くなると思うし、企業や社会が当然支払っていくべきコストだと思います。
広 瀬 その中でまた新しいものができ、資金を回収していけるんでしょうね。
御手洗 できますね。例えば汚れた土壌を浄化するのにバイオテクノロジーを利用すると、そのために科学や技術が育つ。いろんな連鎖反応で技術が育ち、企業化されていくのです。
広 瀬 「ごみゼロおおいた作戦」を進めて、環境を守って輝く大分県だとなるとお客さんが増え、観光にもプラスになる。そうやって前向きに使っていくことですね。
御手洗 そうです、前向きの連鎖反応。大分県はリアス式海岸がきれいだし、山も茂っている。あとは交通網の問題だと思います。九州を見ると幹線の数が非常に少ない。これが網の目のように道路ができて、九州全体の観光開発が進むと、素晴らしい場所だと思うんですけれどもね。
広 瀬 特に東九州自動車道ができていないので中途半端ですね。今度、蒲江|北川間を新直轄方式でやることになったのですが、道路を整備することは九州、特に大分県にとって非常に大事なことだと思います。
御手洗 観光とか産物を運ぶのに加えて、過疎地になりつつある地方に工場を造る場合、道路網で通勤圏内が広がって人が集めやすくなるんですね。今、東京の周りの工場がだんだんなくなっています。地方に行けば日本で十分産業が成り立つのですが、問題は地方に行くほど人がいないということです。道路網があれば人は集められるが、それがないと一極集中で地方は過疎になり、集中した所はコストが高いから産業が空洞化する。九州もドイツみたいに100km、200kmごとに百万、二百万人都市があるというふうにしたらどうでしょう。
広 瀬 中央から地方を飛び越えて海外に工場を移すという傾向の中で、大変素晴らしいご示唆をいただいた気がします。地方のインフラを整備し、工場が来やすい環境をつくっていくことはこれから大事ですね。
御手洗 今、中央にあるものは地方にもあるので、むしろ地方の方が豊かな生活ができると思います。飛行機の時代なので、距離が長さでなく時間なんです。私が東京から大分工場に来るのに2時間かからない。家は羽田に近いし、工場は空港から5分です。ところが茨城県の取手の工場に車で行くと2時間半かかる。あっちの方が遠い。そういう時代ですから東京に住む意味が薄れてきていると思いますね。

産・学・官の提携でグローバルな競争時代を生き抜く
広 瀬 大分県にはキヤノンの3工場、さらに東芝、ダイハツ車体、新日鐵、住友化学など素晴らしい企業に来ていただいていますが、こういったグローバルな企業と地場の企業がバランスをとりながら発展を図っていくことが大事だし楽しみです。地場企業も最近はひしひしと経済のグローバリゼーションを感じていると思います。御手洗社長は企業改革経営者として総理大臣表彰を受けられ、日本経済新聞社の平成の名経営者トップ3に入っておられますが、そのような方からご覧になって、今の経済をどう考え、どんな企業戦略を立てておられるのでしょうか。
御手洗 89年のベルリンの壁崩壊以来、経営環境はがらりと変わりました。89年以前は東西対立があり、日本は西側陣営の中で品質のいいものを安く作る優等生でした。相手はヨーロッパ、アメリカで、貿易摩擦も起こしたが結構すみ分けもしていた。89年からまったく変わってきたのは世界が広くなったことなんですね。例えば中国のような国が突然世界市場に現れ、優良な低コストの労働力にものを言わせてどんどんモノをつくり、円高もあってそちらに流れていった。それが日本が空洞化された一つの要因です。またお隣の韓国や台湾も競争相手になってきた。89年から競争の激化した時代に突然入ったわけです。われわれとしてはこれを技術で乗り切っていこうと思っています。そのために二つありまして、一つはより付加価値の高い産業、あるいは一点単価の高い製品、産業に転身していくこと。もう一つは、人間の手が多くかかる産業ではロボットなどを使って徹底的に自動化すること。生産技術で安い労務費に対抗する、一言でいえば技術で乗り切ろうとしているわけです。
広 瀬 グローバリゼーションは国や地方にとっても大変なことで、企業が国を選ぶ時代になってきました。世界中どこに行っても立地できる時代ですから、その中でどれだけ魅力ある立地条件をつくっていくかが重要です。技術革新をお手伝いできる立派な大学を整備すること、インフラの整備や産業集積も大事だと思います。地方間も競争の時代です。またせっかくいい企業に来ていただいているので、地場の産業とどう盛り立て合っていくかも大事なテーマです。
御手洗 大学の位置付けは非常に重要になると思います。人口もだんだん減っていくので大学も個性を持たないといけません。アメリカなどを見ても国の中心にある都市の大学だけが一流じゃない。あちこちに個性豊かで世界に冠たる学問を持つ大学がたくさんあります。地方に日本的、いや世界的なトップクラスの技術を持つ大学ができれば、世界中から頭脳が集まってくる。それが産・学・官で結びつけば、新しいものが生まれてきます。
広 瀬 大分県は学のところで特色あるものをつくれたら面白いですね。
御手洗 航空宇宙、医学、海洋学、バイオなど未開拓の分野は山ほどありますからね。アメリカのように開発優先型の国家プロジェクトや地方プロジェクトができ、そこから生まれた技術ですそ野産業ができる形で産業の入れ替えが起こるといいですね。

「改革」の必要性
広 瀬 大分県も財政が非常に厳しく、行財政改革プランを作って改革に乗り出し、特にあらゆる経費をゼロから見直しています。御手洗社長のところも今は大変な勢いですが、社長就任当時は厳しい環境もあったかと思います。どのように今日を築かれたのか、教えていただけますか。
御手洗 私の方も社長就任当時は8千数百億の借金があり、借金だらけでした。キヤノンは非常にベンチャー的な気運があってどんどん新しいものを作るんですが、複写機みたいに大成功して会社を大きくするものもあれば、あまり役に立っていない事業も結構あったんですね。しかしいったん動き始めると止めるのが難しい。特に日本の社会はそうだと思います。その結果として不採算部門がたくさんあったので、思い切って全部閉鎖しました。財政建て直しのためにまずバケツの底の水漏れの穴を塞いだんですね。徹底的に経費を削減し、2週間あった夏休みも半分にして残りの半分は任意にとるようにしたり、フレックスタイムをやめたり。相当抵抗も受けましたが、われわれ経営者は10年、20年先の会社の歴史に責任をとらねばならないのですから、例え今痛くてもやらなくてはいけない。今は結構幸せだけれどもこのまま続けていけば10年先に破綻がくると分かっていれば、破壊して10年後まで発展できる仕組みを敢然とつくらねばならない。これはなかなか理解してもらえないですね。
広 瀬 御手洗社長はそのように収益の上がらないところを厳しく切っていく一方、社員は非常に大事にされ、終身雇用は日本的雇用のいいところだと言っておられますね。
御手洗 経営者の責任というのは、企業価値を上げることだと思うんです。上げ方は国や会社によって違ってしかるべきですが、その手法で共通するのは合理主義です。アメリカのように流動性の激しい社会では、優良な社員を集めるにはどんどん入れ替えていけばいいが、日本は流動性が非常に低いですから、そういうことは不可能です。代わるものは教育しかない。終身雇用制をとって徹底的に社員教育することによって、社員を育て会社を強くしていく。アメリカのような社会では教育投資してもすぐにいなくなってしまうので無駄になりますが、終身雇用の場合は無駄にならないですね。だから日本はこの方法が合理的だと思うんです。
  終身雇用のいいところは、社員が長期的な観点で仕事ができること。新しい技術の開発などは5年10年かかるので、雇用不安を考えずに落ち着いてやっていけるのは強みだと思います。そのかわり賃金が年功序列と結びつくと安心しきって活力がなくなるので、給与は徹底的に実力主義、成果主義を取り入れています。年功序列、終身雇用のいいところを生かしながら悪いところを制度で消していく手法です。それが合理的だと思うんです。
広 瀬 行財政改革を進めていくと、組織も改革せねばなりません。県民の求めるものが変わっているのに組織が応じきれていない。皆さんが県庁に来て新しいことをやりたいと言ってもなかなか受けてもらえず、たらい回しになってしまうところがあります。もう一つ求められるのは、スピーディに物事を解決していくこと。県庁はピラミッド型の体系なので、窓口で受けたことがスピーディに県庁内に伝わらない。そこで組織を少し変えて効率的に仕事ができるようにします。もう一つは、県庁はよく勉強をして一人ひとりが政策を語れる政策自治体になっていくことが重要だと思うので、そういう意味で組織を見直していこうと思います。
御手洗 キヤノンの例でいうと、なるべく課や部を減らし、課長や部長の権限範囲を広げようとしています。課や部の人数が少ないと、二つの弊害が起こります。一つは、10人位の部下しかいないとリーダーシップが育たないこと。何十人も任せて、何とか自分で知恵を出し組織維持をしていかねばならないところにリーダーシップが育つんです。だから一人ひとりの権限を広げることでリーダーを育てようとしています。もう一つは、小さく分けているほど管理職の機転が利かないこと。大きな部門ほど臨機応変にやらなければならないので機転が利くんです。だから管理職の数を減らし部下の数を増やして、苦労して治めるような人材育成、組織づくりをしています。
  それと事業部間の壁がやはりあるんですね。例えばカメラという縦の何千人の大部隊がある一方で、会社全体を横に統轄する部署があります。そこで全会社の生産革新や開発革新をやろうというときに、例えばある事業本部長に全社的なプロジェクトを任せるんです。すると縦のいろんな事業本部の長に協力してもらわないと仕事ができない。ということは、自分の本部も別のプロジェクトのときにはどこかの事業本部長に協力しなければならない。そうしないと横の仕事ができないわけです。そうやって縦と横を兼任させることで事業部の壁を破ることに成功しました。全社が事業制に分かれていてもひとつの思想で動くようになるのに3、4年かかりましたね。やっと今、経営効率が上がり、無駄が起こらなくなりました。
広 瀬 役所だけでなく企業でも縦の壁がずいぶん問題になるんですね。
御手洗 みんな自分の世界で物事を決めるので、上から全体を見るという視点がなかったんですね。官庁でも企業でも、人間の集まる世界は大なり小なり同じじゃないでしょうか。

新しい地方づくり
広 瀬 それぞれ地方が独立性を持ってやっていくことが国の繁栄にもつながる、そういう気持ちで新しい大分県づくりをやっていかねばと考えています。幸い大分県には誇れるものが三つあると思います。一つは21世紀型の産業拠点。キヤノンをはじめいろんな企業に生産活動をしていただいておりますが、こういうグローバルな企業と地場の企業が一体となって21世紀型の生産拠点としての大分県をつくっていこうということです。それには技術開発のための基盤をしっかりつくり、いろんな仕事をやり合えるよう産業集積をしていくことも大事だと思います。もう一つは豊かな天然自然の恵みです。その中から素晴らしい食べ物が生まれ、農林漁業が大きな可能性を持っている。「ごみゼロおおいた作戦」で天然自然に磨きを掛けながら、これを生かした農林漁業、食の供給を行い、他県や外国からのお客さんを呼んで観光振興を図っていきたい。そしてもう一つ、大分県には多くの留学生が来て勉強しています。彼らがアジアと日本、アジアと大分県を結ぶ架け橋になってくれると思うので、アジアとの交流拠点として「安心・活力・発展」の大分県をつくっていくのも夢のある話だと思います。最後に、こよなく大分県を愛し激励していただいている御手洗社長から県民にメッセージをお願いします。
御手洗 大分県はある意味では非常に恵まれた環境にあります。ハイテク産業の、技術で勝負している会社が多く立地しているのは素晴らしいことです。技術で勝負する会社は空洞化されない。そういう企業集団がいることは、将来の発展を考えると非常に強みだと思いますね。われわれの側からバックアップをお願いするとすれば、さらなるインフラの整備。そして大学を中心とした人材の供給、県単位の産・官・学の連携。そういったものができれば、ますます大分県は栄えるのではないでしょうか。
広 瀬 頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。



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目次 特集/人が輝く 暮らしが輝く ベンチャービジネス
対談/御手洗冨士夫キヤノン株式会社社長
おおいた文学紀行/津村 信夫・鄙の歌
先人の軌跡 /南 一郎平 −宇佐市−
大分県立芸術会館ギャラリー

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