Tasty Talk

リレーエッセイ
[おおいた味の随想録]

ピアニスト 伊藤 京子

ピアニスト
伊藤 京子(いとう きょうこ)
 北九州市生まれ。東京芸術大学、フランクフルト音楽大学卒業。第43回日本音楽コンクール第3位。77年ブゾーニ国際コンクール第3位。ペルルミューテル、アルゲリッチ、パドゥラ=スコダらに師事。94年アルゲリッチ・チェンバーミュージック・フェスティバルを長年親交のあるアルゲリッチと企画、成功を収め、これを契機に95年よりアルゲリッチ音楽祭プレコンサート、98年からは別府アルゲリッチ音楽祭の企画プロデュースに関わり、アルゲリッチと力を合わせた新しい音楽文化の創造に意欲を燃やしている。また、クラシック音楽を通じた子供達の育成を目指し'00年「おたまじゃくし基金」を設立。同年、基金活動のためにアルゲリッチとのピアノ・デュオCDが発売され絶賛を博している。第12回新日鉄音楽賞特別賞、平成14年度大分合同新聞文化賞受賞。

蒸気を使った「地獄蒸し料理」 「鉄輪」。これを読めたとすれば、あなたはかなりの大分通。テツリン、テツワなど、はじめての人は何と読むのか頭の中を?印がかけめぐります。人が知らないことを知っているのは結構気分の良いもので、これも物知り顔で「カンナワと読みます!」と言うと、相手は「へぇ〜、カンナワ!」とえらく驚き感心してくれます。この良い気分は、今も時折経験させて頂いています。

 ところで今日は食べ物のお話なのですが、この「鉄輪」、友人が「山火事」と思い込むほど、到る所から温泉の湯煙(蒸気)が上がっています。きっと昔知恵者がいて、この蒸気を使わない手はない、と思ったのでしょうね。現在、この蒸気を使った「地獄蒸し料理」が、この地の名物となっています。怖い名前とはうらはらに、実に美味であり、食べると気分はパラダイスになるのです。大分の豊かな山海の恵みをそのまま蒸すだけで、素材の旨味を引き出してしまう魔法の力を温泉は持っているのです。海老であれ、サツマイモであれ、お米であれ、この世に蒸せないものはないのではと思うくらいに、何でも蒸してしまいます。それも電子レンジに負けない早業で、これにも驚かされます。

 どこかのTV番組でやっていましたが、電子レンジと地獄蒸しを比較したところ格段に味も良くなるのが地獄蒸しという結果でした。恐るべし地獄蒸しパワーといったところでしょうか。活海老がまたたく間に赤くなり、蒸しあがるのは少々残酷なのですが、これは海老の身になって「地獄」という名前がついたのでしょうか…。人間にとっては正しく自然の恩恵を頂く有難さを感じます。
地獄蒸し料理
 この鉄輪温泉を有する別府はアルゲリッチ音楽祭でも全国的に名を轟かせています。かつて、世界一のピアニストがやって来た時に、「まるで天国みたいな所でしょう」と言ったところ、「でも地獄があるんでしょう?」と言われたことを今でも思い出します。皆さまも天国のような地獄を味わってみませんか?