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芸術文化の地域づくり
大分県知事 広瀬勝貞
豊後高田は長崎鼻の展望台に腰掛けて、松と岩と波を眺めながら、ふと目を落とすと黒い岩に詩が刻んであります。
夢の箱をたくさん買いなさい
妻にひとつ選んでもらいなさい
一緒に夢をみなさい
これは「国東半島アートプロジェクト」の際出展された、オノヨーコの「見えないベンチ」の一つです。これを見ながら、久しぶりに隣に座ったパートナーと顔を見合わせたものです。
自慢の美しい自然にちょっと芸術や文化で味付けすると、また、心地よい空間ができてくるものです。別府アルゲリッチ音楽祭や混浴温泉世界の行われる別府は以前に比べ随分奥行きが深くなった気がします。客層も大きく広がったのではないでしょうか。彩り豊かな和食文化も楽しめる湯布院や文化栄えた歴史を今に映す杵築、臼杵、日田なども、先駆的な例だと思います。
もちろん、地域に色合いをつける芸術文化にもいろいろあります。先日、注目の指揮者西本智実氏と対談する機会がありました。彼女はそもそもこの世界に入るきっかけが、幼い頃見たボリショイバレエにあったと言うだけあって、管弦楽だけでなく、バレエ、オペラ、いろいろのエンターテインメントをこなすことはもとより、これらと地域の古典芸能とのコラボや映像と共演するプロジェクションマッピングなどにも取り組んでいます。話を聞いていて、これがうまくいけば、クラシック音楽とともに地域固有の芸術文化に新しく光が当たり、それを掲げて幅広い地域のボランティアが参加する新しい地域の芸術文化ができてくるのではないかと思います。芸術文化による地域づくりに新しい可能性ができるのではないかと楽しみです。
芸術文化の地域づくりと言えば、大分県は平成10年に国民文化祭を開催し、この時も大いに盛り上がっています。当時の雑誌「ミックス」に文芸評論家の永松秀敏氏が「文化日本一へのアプローチ」と題して大分県の文化や歴史を振り返りながら、来たるべき国民文化祭への期待を述べています。その中で「いい拠点のあるところには、いい文化が生まれる」とあります。
いよいよ今年は新しい県立美術館が竣工します。芸術文化の出会いの場として、様々な地域やジャンルを取り込みながら芸術文化の地域づくりをリードしてもらいたいものです。それでいて、これまでの美術館のあの堅苦しさを脱して、自分の応接間にいるように気楽に楽しめる美術館にしてもらいたいものです。
県政だより新時代おおいたvol.92 2014年1月発行