国の名勝に指定されている耶馬溪の景観は、溶岩台地の浸食によってできた奇岩の連なる様子が見事で、見る人の心を動かす絶景です。まるで一幅の絵を見ているような一大峡谷の美しさは、かつて歴史家の頼山陽が「耶馬溪の風物天下に冠たり」と絶賛したことでも知られ、古くから多くの文人、画家を魅了してきました。
しかし、近年はこの耶馬溪の奇岩を覆い隠すように雑木が茂り、名勝に指定された当時の景観が失われつつありました。かつての景観を知る人からは、「名勝が失われた」と嘆く声も。
さらに、以前は薪として活用されていた雑木が、伐採されなくなったことで奇岩の周辺に根を張り、岩石崩壊の恐れも生じていました。
この事態を受け、訪れる人を圧倒したかつての耶馬溪の名勝を再生しようと、新たな取り組みが始まりました。
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作業の様子 |
奇岩を覆う雑木を伐採するには、文化財保護法や自然公園法などの規制解除の手続きが必要です。そのためにまずは、地権者の方々に名勝再生事業への理解をいただくことから始めました。そして、景観や生態系を損なわないように、植生の専門家や地元関係者の意見を聴きながら慎重に現地調査を行い、伐採する木を選定することに。
県は森林環境税を活用して中津市に補助を行うこととし、伐採許可の手続きを経た7月に伐採を開始。着々と耶馬溪の美しい岩肌が現れる一方、伐採された雑木の一部は、木炭として生まれ変わりました。
「景観」を見つめなおし、歴史的、文化的に価値ある街並みや自然の景観を観光振興・地域振興に生かそうという、今回の取り組み。多くの人の力を結集し、景観保全と地域活性化を目指した事業の結実として、10月、耶馬溪に見事な景観が蘇りました。