大分県庁のホームページ 『新時代おおいた』のバックナンバー
新時代おおいたVol.65 2009年 7月発行 新時代おおいたVol.65表紙
特集1 小規模集落のくらしを守ろう
特集2 科学技術人材の育成を目指して
風紋 地球温暖化対策を考える
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特集1 小規模集落のくらしを守ろう

モデル集落の取り組み

山部地区の写真 佐伯市本匠山部地区は、人口46人、世帯数は27戸、70歳以上の方が住民の約6割を占める小規模集落です。本匠振興局(旧本匠村役場)から16km進むと、山々に囲まれた集落の姿が見えてきました。
 昨年度、山部地区は小規模集落対策事業のモデル集落として選定されました。モデル集落とは、市町村ごとにほかの地域のモデルとなる先駆的な対策を講ずる集落23カ所を選定したもので、選定後は各地域で具体的課題を調査し、さまざまな対策事業が実施されています。

 山部地区の後藤廉区長は、集落住民の強い希望として「ほかの地区と同じになるよう、若い人が帰ってこられるよう、道路を広げ携帯電話を使えるようにして欲しい」とおっしゃいます。
後藤区長の写真
山部地区の後藤廉区長

 これら個別の課題については、佐伯土木事務所や佐伯市等で検討されているところですが、一方で山部地区では、そのほかの集落の課題解決の方法を時間をかけて模索してきました。その中で、集落活性化を目指し地区外住民との交流事業を行うことにしたのです。
駒打ちの様子の写真 その事業の実行役として、白羽の矢が立ったのが佐伯市で地域活性化活動等を行っているNPO法人Lord.祝でした。同法人が山部地区と外部地域の仲立ちをし、双方への働きかけを行います。4月には第1回目の交流事業として佐伯市の小学生を招き、しいたけの駒打ち体験を行いました。
  交流事業についてお尋ねすると、後藤区長は「子どものためにはとてもいい体験だと思います。駒打ちだけじゃなくて、しいたけ狩りもしたらいいですね。子どもを連れてきた人が、また本匠に来てくれれば活性化になりますから」と、奥さんのウタ子さんともども、笑顔でおっしゃいました。
 
勝尾さんの写真
NPO法人Lord.祝(はふり)の勝尾逸子さん

 一方、山部地区を幾度も訪れ、地域ですっかりおなじみの顔となったNPO法人Lord.祝の勝尾逸子さんは、「2名1組で集落を訪れて、家々を回っての声かけから始めました。最初は、警戒心をもたれていましたよ。『なにしに来たの?』という感じで、受け入れていただけるか不安でした」と朗らかに笑います。
 「でも、次第に顔を覚えてもらって、交流事業もした今では『次はなにをやってくれるの?』って聞いてくれます。楽しみにしてくれてる人がいるんだと思うとこちらも元気になりますし、次はもっと多くの地元の方が参加できる取り組みを考えようと気がひきしまるんです」といきいきと語ってくださいました。
 今後は佐伯で根を張るほかのNPOも巻き込み、地元の人には見えづらい”地域の宝物“を発見して外部との交流につなげたい、と意気込みます。
 モデル集落では、集落の今後の在り方を考え、行政や民間と協働のもとそれぞれの地域に合った形での活性化を探っていきます。


小規模集落対策本部

対策本部会議の写真 昨年度、県は「小規模集落対策元年」として知事を本部長、各市町村長等を本部員とする「大分県小規模集落対策本部」を設置し、市町村と連携して小規模集落の維持・活性化に向け取り組んできました。
 5月に開催された対策本部会議では、集落の活性化の問題、集落の機能維持の問題にさらに積極的に取り組むこと、などといった基本方針を再確認したところです。
 これらの課題は、どれも一朝一夕に解決できるものではありませんが、着実な取り組みを続けていく考えです。



交通対策

コミュニティバスの写真  過疎地においては利用者の減少に伴い、バスの路線廃止や減便が生じています。中山間地域などの集落では、交通手段の維持・確保は日常生活を維持するために必要不可欠です。
 県ではこれまで、合併新市が運行しているコミュニティバス等に助成をし、生活交通の確保を図ってきました。今年度からは、「生活交通路線支援事業」を新たに実施しています。これにより、民間路線バスやNPO等が運行する自家用有償旅客運送など、これまで助成を受けられなかった運行形態でも、条件をクリアすれば県の助成が受けられるようになりました。市町村や民間団体、企業と連携し、交通不便地域や交通空白地域の解消に向けた取り組みを今後も支援していきます。
 国東市では、既存の路線バスの利用者が少ない時間帯を把握した上で、交通事業者との協議を通じてその時間帯を減便し、その空いた車両と乗務員を活用してコミュニティバスを運行することにしました。
 路線バスの運行効率を向上させることで、市からバス事業者への補助金を減らすことができ、その分で新たな財源を使わずに、交通空白地域の解消を実現しています。路線が増えるという地域住民のメリット、市の補助金の削減につながるというメリット、バス事業者は営業収入の増加や乗務員の雇用維持というメリットを生み出す「国東方式」として、全国的にも注目されています。また、地域全体の理解、協力も「国東方式」の大きな特徴です。コミュニティバスの運行は1集落につき1週間に1回が基本ですが、集落から来る患者の診察時間をバスの運行時間に合わせるなど、バスの運行に地域住民の生活を合わせているのです。
 地域の人の声に十分に耳を傾けた上で、それぞれの利益が生じる仕組みづくりを実現した事例です。


鳥獣被害

  有害鳥獣による農作物への被害が深刻化しています。県ではこれを緊急の課題として認識し、有害鳥獣と戦う集落体制づくりとして、(1)集落環境対策、(2)防護柵設置などの予防対策、(3)狩猟者の育成などの捕獲対策、(4)獣肉利活用、の4つの方針を立て、今後5年間のうちに被害の半減を目指しています。
  そのため、昨年度から行っている各地域ごとの「鳥獣害対策アドバイザー」の養成に加え、今年度には「鳥獣害対策専門指導員」を県庁に2名配置しています。これにより、各地域の被害に対してアドバイザーの指導に加え、さらに専門的な対応が可能となりました。 
 指導員と協働し、集落をあげて熱心に鳥獣被害軽減に取り組む玖珠町の原・専道・梶原集落を訪れました。
 集落の打ち合わせでは、代表者の梶原利彦さんが早速、被害状況を報告します。また、集落の島津益夫さんからは「防護柵では囲うことができない河川をつたって、イノシシが入ってくるんです」との訴えが。
 県の鳥獣害対策専門指導員である高宮立身さんと正田益資さんは、一つ一つ地図を見ながら問題個所を確認、集落を巡って対策を講じます。
 この地区で画期的なことは、県の補助金などを活用し、集落全体を囲むように防護柵を張り巡らせていることです。また、その後の柵の管理も集落で協力して行っています。個人の田畑ごとに対策をするよりもはるかに経済的であり、朝晩の柵の見回りの手間が減った分、とても楽になったそうです。「この、集落を囲む防護柵のおかげで被害は9割方減りました。今は、向こうから見たら私たちがおりに入っている状態ですけどね(笑)」と梶原さん。
 イノシシがやぶに隠れないよう、年に2回の柵周辺の下草刈りが欠かせませんが、それも集落の人たちが共同で作業しています。今後は、地区ごとに柵の見回りチームを作ることも検討しているそうです。集落の人々と指導員で互いに知恵を出し合い、熱心に活動を続けた結果として、大きな成果をあげています。


人手不足

 地域の高齢化が進むと、草刈りや集会所の清掃など共同で行っていた作業が困難になっていきます。こうした集落の機能を維持することは、大きな課題の一つです。

川上さんと橋本さんの写真
川澄化学工業(株)の川上恒雄さん(左)と新入社員の橋本沙代子さん(右)

 今後、そんな課題に対する支援のモデルとなるのが、川澄化学工業(株)が行った、豊後大野市緒方町上畑地区でのボランティア活動です。
 同社は、新入社員研修として集落の清掃作業のボランティアを取り入れ、当日は関係者を含めた計42名が集落で汗を流しました。
 地域貢献活動に積極的に取り組んでいる同社が、県と市が進める小規模集落への支援に賛同。そこで今回の活動が実現したのだそうです。
ボランティアの様子の写真 作業に参加した新入社員の橋本沙代子さんは、「神社の清掃はすがすがしかったです。地域の伝統や文化を学ぶことができたし、集落の方からは、若い人というだけで喜ばれたのでうれしかったです」と笑います。福岡で育ったという橋本さんは「上畑地区の豊かな自然にとても魅力を感じ、こういう場所を残していきたいなと思いました。若い人が帰ってくる魅力ある地域づくりってなんだろう、って考えましたね」と真剣な面持ちで語ってくださいました。
 今回のボランティアの担当である川上恒雄さんは「集落に実際に行ってみると、ライフラインの整備など、問題点もよく分かりました。今後も、何らかの形で企業やNPOが小規模集落にかかわっていくことは必要だと思います。そのために、やはり危険を伴う作業への参加などは、リスクをどう少なくするかが課題でしょうね」とおっしゃいます。
 こうした集落では、過疎高齢化が今後も進んでいく中で、人手不足が深刻な問題となっています。

  そこで県では市町村と協力し、集落の共同作業や祭りの支援などの課題を、企業やNPO、同窓会やそのほかの団体の力を借りて解決しようと、「小規模集落応援隊」を募っています。支援を希望する団体と集落、双方の条件を踏まえて県と市町村が縁結びをします。将来的には、継続した支援の仕組みづくりにつなげていきたいと考えています。

小規模集落応援隊のしくみ解説図

【小規模集落応援隊についての問い合わせ 観光・地域振興局 097-506-2123】



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