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新時代おおいたVol.67 2009年 11月発行 新時代おおいたVol.67表紙
特集1 技術で勝負!農林水産業の今
特集2 子どもたちを守ろう 〜教室を取り巻く現状〜
風紋 再び「私が教えられたこと」
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特集1 技術で勝負!農林水産業の今

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オリジナル品種を全国へ 〜晩生梨「豊里(ほうり)」〜

山部地区の写真 10月下旬、梨生産農家の小埜照明さんの農場を訪ねると、大分県オリジナル品種の晩生梨「豊里」が、その名のとおり豊かに実りの時を迎えていました。
「この『豊里』のような品種はうれしいですね。一筋の光という感じです。他県では食味の優れたオリジナル品種が育成されています。大分県でもそれに肩を並べるような品種が欲しいと前々から思っていましたから」と小埜さんは語ります。
 「豊里」は、県の研究センターで「愛宕(あたご)」に「新興(しんこう)」を交配して育成された品種で、従来のものとはひと味違う、付加価値の付いた梨を目指して改良を重ねてきたもの。
 平成19年に「豊里」として品種登録され、昨年度大分県のオリジナル品種として世に出たところです。
 特徴は、まず平均糖度が13・5度と高いこと。酸味も多いため濃厚な食味が楽しめます。現在出荷数は少ないものの、クリスマスやお歳暮など、冬の贈答用として大きな期待が寄せられています。
 「生産者も、基準糖度を高く設定するなど決して品質を下げないよう努力しています。糖度13度以上でないと、市場には出しません」と小埜さん。
 「豊里」への意気込みが感じられます。
 糖度13度以上とは、誰が口に入れても「甘い」と感じる度数であり、かなり厳しい目標なのですが、「豊里」の品質に責任と誇りを持っているからこそ、の決断です。
 数量的には、まだこれからの「豊里」ですが、今後はおいしさ、質の良さを前面に押しだし全国にPRしていく考えです。


冬を克服 輪ギク「神馬(じんば)」に低温開花性品種登場

対策本部会議の写真
渡辺鎮人さん
県の渡邉英城さん
 昨年度、日本中に大きな影響を与えた原油価格の高騰は記憶に新しいところです。農業分野でも、施設園芸農家が受けた打撃は小さいものではありませんでした。
 しかし、重油高騰の被害を最小限にとどめることができたのが、佐伯市蒲江の輪ギク生産農家です。ここで主に作っているのが、低温開花性の輪ギク。これは、「神馬」という品種のうち、低温開花性に優れたものだけを選抜して作られた(新)品種で、従来の「神馬」に比べて重油の使用量を3割近く削減することができるのです。
秋の輪ギク 「神馬」
 このキクを生産する渡辺鎮人(しずと)さんは、「去年はかなり重油の値段が上がったけど、このキクのおかげでなんとか乗り切ったんですよ」といいます。
 もともとは、どんな要望から生まれてきた品種なのでしょうか。
 「キクというのは、年中需要がある品物です。特に多いのは盆と正月、お彼岸。需要の多い時期にきちんと供給しないといけないんですが、冬季は温度が足りず開花がばらつくので、出荷に日数がかかることがあります。だから寒い時期にも計画的にきちんと育つ品種が一番ありがたいです」と渡辺さん。
 「それでは冬にきちんと出荷できる品種を作ろう」と県の花き研究所で生み出されたのが、この輪ギクでした。
 計画的に生産したいという生産者の要望に応えながら、重油の使用量を減らせるというエコな副産物付きのこの品種。
 県の花き研究所の渡邉英城さんは、「他県のみならず、中国やマレーシアなど海外からも安くて良質の花がたくさん輸入されている昨今では、競争に勝つために付加価値のある良質な品物を、安定供給することが必須です。さらなる品種の改良に力を注ぎ、生産者を後方から支援していきます」と力強く語ります。


誕生!「おおいた冠地どり」

コミュニティバスの写真
左から、飼育を委託されている榎本登志春さん、「学食」社長の雨川利沖さん、県の手島久智さん、阿南加治男さん。
 大分県の鶏肉消費量が全国1位であること、ご存じでしょうか。「とり天」や「からあげ」は県民食として、大分の食卓には欠かせない存在となっています。
冠地どりの「一夜干し」。このラベルが「おおいた冠地どり」の目印。
 そんな鶏肉文化圏である大分ならではの、「こだわりの地鶏を」との思いで生み出された地鶏が「おおいた冠地どり」です。
 「『おおいた冠地どり』は、雌雄4品種を掛け合わせた新しい地鶏です。一番のポイントは、うまみ成分の多い烏骨鶏(うこっけい)を交配させたことで、地鶏では国内初なんです。11品種の素材鶏の中から掛け合わせを絞り込み、うまみや産卵性、発育など他の品種の長所をとりこんでいきました。その結果、やわらかくてうまみが多いこの『おおいた冠地どり』が誕生したんです」と、県の畜産試験場の阿南加治男さん。
 食肉加工会社の「学食」では、昨年4月から「おおいた冠地どり」の飼育・加工を始めています。今年は年間3万6千羽の飼育を手がけていますが、いずれは年間10万羽まで増やしたいと考えているそうです。
 雨川利沖社長は、「この地鶏は間違いなくこれから広がりますよ」と太鼓判。
 「もう、この鶏肉にほれ込んでいます。多くのホテルや旅館などで気に入っていただいていますよ。うまみがあると同時にやわらかさがあるので、子どもや高齢者にも食べやすい。大分の鶏肉として代表的なブランドにしていきたいですね」と意気込みます。
 たくさんの人の大きな期待を背に、「鶏肉文化圏・大分」の威信をかけた、新しい地鶏の挑戦が始まっています。  


県産技術がはばたく「大分方式乾燥材」

  木材乾燥には、自然に乾燥させる「天然乾燥」と、木材乾燥機で人工的に乾燥させる「高温乾燥」の二つの方法があります。
 「大分方式乾燥」とは、この二つを組み合わせ、両者の利点をうまく取り入れた、大分県独自の乾燥方法のことです。
左から県の佐藤朗さん、田口孝男さん、「安心院製材」社長の安心院剛さん、県の豆田俊治さん。
 「天然乾燥はエネルギー消費が少なく木の色や香りが良いのですが、乾燥に時間がかかり、特に芯持ちの柱材では表面割れが起こりやすい。一方高温乾燥では表面割れはありませんが、変色や内部割れなどの問題があります。そこで、高温乾燥材のように表面割れのない天然乾燥材はできないかと試験研究を始めました」と語るのは、県林業試験場の豆田俊治さん。
 研究を進める中で、最初に高温処理を行い表面割れを抑え、その後に天然乾燥を行うことで変色や内部割れを防ぐ方法を考案。さらにさまざまな実証を行い、「天然の風合いを残しながら割れの少ない木材」を実現する最適な乾燥スケジュール「大分方式乾燥」が作り上げられていったのです。
 大分方式乾燥材を生産する「安心院(あじみ)製材」社長の安心院剛さんは、大分方式について「皆さん一度使ったら、『いいなあ、ずっと使いたい』とおっしゃいます。高温乾燥の欠点を克服しようという他県に対して、大分県はまずは天然乾燥の良さを生かそうというところがスタートでした。これは、よそとの差別化を図る上で大きなポイントです。ただ、天然乾燥のプロセスを入れている分、生産の時間が読みづらい。生産と供給のバランスをどうとるかが今後の課題です」と分析します。
 昨年度、促進乾燥仕上げなど新たな生産プロセスの導入により、懸案だった天然乾燥期間の短縮に成功。6ヶ月程度かかっていた天然乾燥を3ヶ月以内にまで縮めることが可能になりました。
 大分の木、大分の気候を生かし、他県がまねできない大分独自の木材乾燥技術は、日夜進歩しながら、全国に広がりを見せています

高温乾燥材
天然乾燥材
大分方式乾燥材


全国初!ヒジキの養殖技術確立

ヒジキを挟み込んだロープを海面に張る。
 ヒジキの養殖に県が漁業権を交付したのは今年9月。全国で初めてヒジキの養殖技術が確立された大分県で、漁業者の本格参入が始まります。
 「大変なことばっかりやったな」と笑うのは、国東市国見町の漁師、津アさんと江本さんのお二人。
 両名は、県や漁協役職員などと一緒に、ヒジキ養殖技術の確立に向け長年試行錯誤を繰り返してきたメンバーの一員です。「日本で始めての取り組みということだから、夢があったな。でも1年目、ヒジキがすごく生長して『これは成功だ』と喜んでいたら雑藻(ざっそう)が付いて失敗。3年かかって別の場所を探して試したら新しい雑藻が付いて失敗。やっと今年、天然と変わらない品質のものができるようになったんですよ」と楽しそうに語ります。
 現在、国内で流通しているヒジキの7〜8割は外国産。しかし、食の安全に対する意識の高まりや産地表示の義務化規定などから、国産品への需要は非常に高まっています。
 県では、全国に先駆けてヒジキの養殖技術の確立に力を注いできました。そして開発されたのが、種苗として採取したヒジキの藻体をロープに5cm間隔で挟み込み、そのロープを海面に張って生長させる、という独自の養殖方法でした。
 さらに、組織培養で人口種苗を作るための基礎技術を確立。今、新しいステージに踏み出したところです。
 ヒジキの研究を続ける県水産試験場の伊藤龍星さんは、次のステップは「挟み込み作業の効率化」と「種苗の量産化」と言い切ります。特に量産化ができれば、種苗採取の手間や量の制限といった課題が解決でき、養殖規模拡大の可能性が広がります。
 「現状ではロープへの挟み込みは手作業で行っていますし、種苗の量も増やさないと規模拡大は見込めません。ヒジキは国内需要が高まっていますし単価も倍以上に上がっています。量産化の取り組みで商業ベースに乗せたいですね」。
 健康食志向に応える県産ヒジキ、今後の飛躍が楽しみです。
ヒジキの根もとにある「付着器」を培養し、人口種苗を作る。
江本歡治さん(左)、津ア征男さん(中央)、県の伊藤龍星さん(右)。江本さん、津アさんの奥さんも一緒に挟み込み作業を行う。





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