「かまは回すように使って。のこぎりみたいに引いて使うもんじゃないよ」「刈ったイネは根元も穂先もそろえてあぜにまとめて置いといて」
てきぱきと指示を出す声が水田に響きます。ここは棚田で知られる院内町・余谷地区。稲刈りしているのは大分大学教育福祉科学部の1・2年生75人。教師をめざす学生たちが、余谷地区で農作業を体験しているのです。
初めて手にするかま。ぬかるむ地面。台風で倒れた稲穂。慣れない作業で泥だらけになっている学生もいます。それでも、二反(約20a)の稲刈りをほぼ2時間で終わらせることができました。
指示を出していた声の主、余谷21世紀委員会の副会長真田さんに、この体験学習を受け入れたきっかけを聞いてみました。
「美しい棚田でしょう。初めて目にして『懐かしい感じがする』と言う学生もいるんですよ。でも、棚田は一枚一枚の田が狭く大型機械も入りにくいため、米づくりに係るコストはどうしても高くなります。かと言って、農業をやめてしまえば棚田は荒れ果ててしまう。それを防ぐには、余谷でとれた農作物が多少割高に見えても、そのおいしさや安全性をアピールして消費者に買ってもらわなければなりません。そこで、平成12年に『余谷21世紀委員会』をつくり都市部と交流しながら、消費者が求めているものを探っています。さらに進んで、山あいの農業の実情を消費者にも理解してもらえれば、と思っています。農薬を減らし、有機肥料を使った『せせらぎ米』の販売や、都市部の団地の夏祭りなどへの農産物の出品もその一つですね。未来の先生たちに余谷を知ってもらうことも、農業や農村への理解につながると思っています」
消費者がほしがる食材を提供することや、農村の実情を知らない学生たちと交流することで、消費者の関心を食材だけでなく生産者へ、さらには産地へと広げて、農村としての姿を保とうとする試みを余谷は行っているのです。
同時にその試みは、「地元の食材、安全な食材を口にするためには、消費者も食の産地をどう育てるか、どう維持していくかを考えることが必要だ」という重要な問題を消費者に投げかけてもいるのです。 |