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新時代おおいたVol.68 2010年 1月発行 新時代おおいたVol.67表紙
特集1 エコおおいた2010 〜きょうから始めよう〜
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特集1 新春座談会 エコおおいた2010〜きょうから始めよう〜




広瀬 あけましておめでとうございます。今日は地球環境問題について考えたいと思っています。この問題は地球的規模の大きな問題であると同時に、一人一人が日ごろから取り組まなければならない、まさに身近な問題でもあります。
 そこで、シンガー・ソングライターの今成佳奈さん、宇佐市で漁業を営んでおられる渡邊英敏さん、焼酎メーカーである三和酒類の下田雅彦専務にお越しいただき、環境への取り組みについて伺います。

それぞれの分野で環境と向き合う



ふるさとの自然への思い 〜今成佳奈さんの活動〜

広瀬 今成さんは大変積極的に環境問題に取り組んでいただいていますが、そのきっかけを教えてください。

 今成 私は音楽活動で大分と東京を行き来しているんですが、もともと自然豊かな豊後高田市の出身ですので、東京にしばらくいると緑が恋しくなるんです。それで郊外に出掛けると、ゴミが多かったり魚が驚くほど少なかったり。こんなふうに大分の豊かな自然がいつかなくなってしまったらと考え、怖くなったことがひとつのきっかけです。
 そして、国体で歌わせていただいたことがまた大きな原動力になりました。全員で力を合わせて大会を作り上げていく感動を経験し、人が力を合わせればこれだけ大きなことができるんだと実感したんですね。それで環境活動も、思っているだけじゃなくて行動してみようと。

広瀬 歌の中に環境の問題を歌い込んだり、あるいはまた環境をテーマにコンサートをされたりと、音楽活動の中でも訴えていらっしゃいますね。

今成 テレビやラジオに出演させていただく時には、私が感じた「自然ってとてももろくて壊れやすいんだな」ということを一人でも多くの人に伝えたいと思っています。そのことを歌にしたり、環境をテーマにチャリティーコンサートを開催したりしています。

広瀬 今成さんの作った曲「We are」には環境問題が歌い込まれていますね。

今成 そうですね。「We are」はチャリティーコンサートのテーマソングです。「We are」というタイトルには私が国体で感じた、年齢、性別、国籍、障がいの有無にかかわらず、大分にいる「私たち」の輪を広げたいという思いと、大分の自然と環境をテーマにしていきたい、という両方の思いを込めています。

広瀬 音楽活動と併せて、日ごろも随分ボランティアとして活動されているそうですね。

今成 去年の11月には、別府の上人ヶ浜公園で環境美化活動を企画しました。
   その時、チャリティーコンサートに協賛していただいた資金から軍手や火ばさみを準備して、それらにこの自作のステッカーをはって皆さんにお配りしたんです。普通は使った道具を回収するそうですが、私はステッカーもはったので、自宅の周りでもゴミ拾いしてくださいという思いでお持ち帰りいただきました。

広瀬 ありがとうございます。
 今成さんには、大分県のマイバッグ運動のポスターにも登場していただきました。去年はマイバッグ運動が随分盛り上がりましたね。県民の皆さんのご理解のおかげで、またたく間に持参率は8割を超えました。このままいけば、年間およそ3億枚使われていたレジ袋の3分の1、約1億枚が削減できます。これを二酸化炭素に換算するとなんと6200トンの削減になるそうです。小さなことでもみんなで努力すれば随分力になるんだなと実感したわけです


漁師として生きるために、海を守る〜渡邊英敏さんの取り組み〜

広瀬 渡邊さんは、海の清掃活動や、豊かな森づくりにもご活躍されていますね。大変大事な仕事だと思いますので、お話を聞かせてください。

渡邊 まず、先ほど話に出たレジ袋の無料配布中止は、私たち漁業者にとって大変ありがたいことです。

広瀬 レジ袋は随分海に捨てられているんですか?

 渡邊 多いですね。海に流れ込んだゴミというのは溶けないので、いつまでも残るんです。そうして海にたまったレジ袋などのゴミに魚が産卵すると、うまく生育できないんですね。生育できないような産卵のしかたをされると漁業者にとっては死活問題になりますから、レジ袋無料配布中止の取り組みには助かっています。

広瀬 マイバッグ運動は漁師さんにとってもありがたいことなんですね。
渡邊さんは、森を豊かにすることで海も豊かになるという活動をされています。森と海は深い関係があるんでしょうか。

渡邊 関係がありますね。護岸工事などで舗装されていなかったころは、いたるところから山の豊富な栄養分が川や海に流れ出ていたんですが、今はそれがありません。そして山自体も人の手が入らなくなり、荒廃してやせていっています。それではまずは自分たちができることをやろうと、みんなで一緒に山の植樹に参加しています。

広瀬 なるほど。山の豊かな栄養分が海に流れ込んで、そして海を豊かにするということなんですね。

渡邊 私は、平成14年に開講した「豊の浜塾」の二期生として勉強させていただきました。その時に、県内のすばらしい漁業者の方々と深いきずなができたことが、今につながっていますね。そういう方たちと漁業の現状や今後について話し合うようになり、その交流のおかげで植樹の参加者も以前よりかなり増えたと思います。

広瀬 県で毎年行う植樹祭には、大漁旗を掲げて参加してくださいますね。一生懸命森づくりに力を貸してくださる漁師の皆さんに、本当に感謝しています。
 ところで、渡邊さんは漁業を始められて32年たつそうですが、この32年間で海は変わってきましたか。

 渡邊 変わりました。昔は海にゴミがなかったので、選別が必要なかったんです。今は底引き網を上げて、ゴミの中から魚やエビを拾うという状態です。
 ですから、たとえ昔の海に戻すことはできなくても少しずつでもゴミが減れば、魚の生育もよくなって自分たちのためになるんじゃないかという思いで、ゴミの持ち帰り運動を続けているんです。

広瀬 なるほど。
 先ほど、山の養分が海に流れ込んで、そして海を豊かにするというお話がありました。最近そのメカニズムの研究の中で、森で作られる「フルボ酸鉄」が海に流れ込むことで海草を育て、魚を育てている、そんなことが分かってきたんです。そこで森を豊かにすることに加えて、海そのものを豊かにする方法も取り入れたいと。製鉄所で鉄を作る時にスラグというものができますが、これを袋に入れて海に沈めるとこのスラグから鉄分などが流れ出て、同じ効果が生まれるそうです。既に県内でも実験を行っているんです。



産業廃棄物は、資源に変わる〜三和酒類のチャレンジ〜
 
広瀬 三和酒類では焼酎を造ることに加えて、バイオマス事業というものを始められたそうですね。

下田 焼酎粕をバイオマスとして総合的に利活用する「拝田グリーンバイオ事業所」が昨年4月に稼働を始めたところです。
 焼酎粕は焼酎を造る際に出る副産物です。これは高濃度の有機物を含んでいますので、うまくメタン発酵させると非常に大きなエネルギーを得られるんです。そのエネルギーで蒸気を沸かし、その蒸気を利用して焼酎粕の一部を今度は濃縮して飼料にします。また、一部は高度処理して食品素材として活用する、そういう事業です。

広瀬 なるほど。どれぐらいの焼酎粕をリサイクルできるんですか。

下田 ほぼ100%です。今の課題は、有効利用先の確保です。食品原料としての販売に加え、飼料の方も徐々に酪農家の方の認知度が高まっていますので、地域の方や県内の酪農家の方に供給していきたいですね。

 広瀬 この事業は省資源、省エネルギーの考え方で始められたんですか。

下田 そうですね。もともと、焼酎を造る時には、ほぼ同量の焼酎粕ができます。
 当社では年間約7万トンの焼酎粕ができるのですが、昔はそのほとんどを産業廃棄物として処理していました。しかし飼料の高騰などもあり、飼料としての価値が徐々に上がり需要が増えてきたことに加え、食品素材としても価値があることが分かってきたんです。

広瀬 環境問題からみると、資源の節約、そしてエネルギーの節約になる本当にいい事業ですよね。

下田 今まで乾燥や濃縮に重油を使っていましたが、バイオマスのエネルギーに切り替えることで、重油換算でドラム缶2400本分のエネルギーが得られます。それで年間3500万円ぐらいコストダウンになります。それから炭酸ガスの削減という意味では年間3000トン。

広瀬 かなり大きいですね。これまでは産業廃棄物として捨てていたものを100%いろんな形で利用する、しかもそのエネルギーはメタン発酵の熱エネルギーを使うという提案はすばらしいですね。

 下田 今日は、バイオマス事業の一環として生まれた商品「麦酢」を持ってきました。焼酎ができた後のエキスをきれいにろ過し、果汁をブレンドして健康飲料という形で付加価値を付けていく、こういった商品にも取り組んでいます。やはり麦というのは食料であり限られた貴重な資源ですので、できる限り生かしきるというのが基本的な考え方ですね。
 20年前は、焼酎廃液は産業廃棄物処理をしていました。そうすると1キロあたりのコストは大体マイナス10円です。しかし、濃縮して飼料にすると10円ぐらいのプラスになります。きれいに清澄ろ過して食品の原料にしたり、麦焼酎の粕を粉末にしたりすればキロ数百円。さらに、焼酎粕を再度乳酸菌で発酵させるとギャバという食品素材が作れるんですが、それはキロ数万円になるんです。そういった夢のある事業に取り組んでいきたいですね。

広瀬 いいお話ですね。環境問題は負担ではなく、もうけになるというわけですね 


未来のために、始めよう


広瀬  今日は皆さんから環境問題への取り組みを伺ってきました。最後に、県民の皆さんへメッセージを一言いただけますか。

今成 国や企業というものは、人を経済や物質で豊かにしてくれます。そして豊かな自然環境や音楽、おいしい食べ物というものは、人の心を豊かにしてくれると思います。それはどちらかひとつだけではなくて、やはりそれぞれが適度にあってこそ、人の暮らしが幸せになっていくのかなと感じましたね。

渡邊 環境問題は大きな問題ですが、一人一人が考えていかなければいけない問題です。過去に人が環境に対してしてきたこととその結果としての現在をきちんと見つめて、未来に何を残すか、それを個人が考えないといけないと思います。

下田 企業にとって事業活動というものは直接環境にかかわってきます。これまで環境対策はやはりマイナスのコストという位置付けでしたが、最近は企業の環境問題への対応が非常に評価される時代になってきました。環境を守りながら企業もメリットを出せるような、そんな技術開発にチャレンジしていくことが大事だと思います。

広瀬 皆さんのお話を伺いながら、「3E」という言葉を思い出しました。環境(エンバイロメント)のEと、経済(エコノミー)のE、それからエネルギーのE。環境を守ること、経済、すなわち生計を成り立たせること、そして暮らしを成り立たせるためのエネルギー、これらはすべて大事なことです。これから環境問題を考える時に、これら3つのEが並び立つことが非常に重要なことだと考えています。それを可能にするのは、人間の知恵であり、技術であり、日々の暮らしの中の工夫です。
 今日お越しの皆さんは、それぞれの分野で環境問題に取り組んでおられます。
 私たちも今日から、何か自分でできることを始めてみませんか。
 今日は本当に有意義なお話をありがとうございました。


(1月2日放送 OAB新春特別番組要旨)


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