大分県庁のホームページ 『新時代おおいた』のバックナンバー
新時代おおいたVol.58(2008年5月発行) 新時代おおいたVol.58表紙
特集1 ITで切り開く大分県の未来
特集2 平成20年度大分県予算
風紋 ふるさとは…
県民ひろば
心ひらいて
とよの国の食彩
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特別対談 グーグルジャパン社長 村上憲郎 × 大分県知事 広瀬勝貞「ITで切り開く大分県の未来」

パソコンを使う人なら誰もがその名を知る「グーグル」。インターネット検索サービスの最大手としてよく知られる同社ではあるが、今や「検索エンジンの会社」とは言えなくなりつつある。グーグルアース、ニュース検索、大容量ウェブメール「Gメール」…。次々と打ち出される先進的かつ独創的な無料サービスに、世界中のインターネットユーザーは驚き、そして絶大な支持を送る。そのグーグルの日本法人を率いるのが村上憲郎氏――大分県佐伯市出身である。「アイデアさえあれば、世界の中心に立てる」そう語る村上氏の真意に、広瀬知事が迫る。果たしてIT(情報技術)で何ができるのか? 今のこの時代だからこそ、我々がなすべきこととは?ITの進展により生まれた新たな可能性を探る。

情報発信で世界の中心に立つ

広瀬 以前、大分県に非常に縁のある臨済宗・相国寺派の管長、有馬頼底さんのご講演を伺ったときのことなんですが、競馬レースの「有馬記念」の話が出まして、有馬記念と有馬頼底さんの関係というのがよく分からなかったので、調べてみようと思ったんです。それで、家に帰ってグーグルで検索をしましたら、見事に求める情報が全部見つかりまして、改めてグーグルの威力を感じたんです。

村上 ありがとうございます。インターネットはおかげさまでかなり皆さんに親しんでいただけるようになりましたが、登場した頃の一番の悩みは、的確に自分が探している情報にたどりつくのがなかなか難しいということだったんです。
  グーグルの創業者二人が考えたことは、書籍には後ろに索引というところがあって、例えば「有馬記念」とかいう言葉で検索できるようになっていますよね。もしもインターネットが巨大な書籍だとすると、ある事柄に関する情報がどこにあるのかが分かる索引を作ろうということからスタートしたんです。
  そういう発想はグーグルだけが考えたことではないんですが、二人が優秀だったのは、ネット上にある無数の情報の中から、より関連度の高い順に示せる仕組みを作ったんですね。ですから知事がお使いいただいて、「的確な情報がすぐに出てきたな」という風に感じていただけたとしたら、少しは我々の知恵が、皆さんに喜んでいただけるような段階まできたかなという感じですね。

広瀬 なるほど。もう一つ、私の経験からなんですが、正月にベトナムに行きまして、カントーという都市でちょうど発電所を作っているところを訪ねたんです。
  するとそこの所長さんが資料を作って説明してくださったんですが、こういう地域にこの発電所はありますよといった説明をされるのに、グーグルアース(*1)を使っておられたんです。こういう地図を自分で作るとなったらなかなか大変でしょうし、グーグルアースを使って分かりやすく説明していただけて私自身も助かった、ということがありました。
  そうやってグーグルアースをうまく仕事に使っているのを見まして、いろんなビジネスや日常生活の中にグーグルは使われているんだなぁと改めて実感をしたんですけどね。
  大分県で何かおいしい食べ物を作って世に売り出そうという人、あるいは何か事業をしようという人は、グーグルを使ったらいろんなことができるのではないでしょうか。

村上 グーグルアースでは地図の情報を提供していますが、その中の情報は我々ではなく、どなたかが持っているものなんです。いろんな方がいろんな情報を自由にアップロードできる仕組みになっているんですね。
  そこで、知事の御質問にお答えすると、大分県の物産や観光情報をグーグルアースの上に自由に挙げていただけるんですよ。地域的な情報を集約する場ですから、ぜひ地方から発信したい情報を挙げていただくと、我々もありがたいですし、ユーザーの方にも大分県にどういうものがあるのかということがよく分かると思います。

広瀬 ということは、地図として既に提供してくださっているものの上に、我々が物産や歴史や、あるいは観光地図を作ったりできるわけですね。

村上 自由にお使いいただけます。最近の言い方ですと、「コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア(*2)」と言うんですが、消費者サイドが積極的にコンテンツを作り込んでいくという流れがありますので、県としてのいろいろな地域情報の発信の場としてお使いいただければと思います。

広瀬 みんなが参加しながらコンテンツを作っていくという時代なんですね、受信すると同時に発信もできるんだという。まさに、村上さんがよくおっしゃられている「アイデアさえあれば誰でも世界の中心に立てる」ということですね。

村上 おっしゃるようにインターネットは双方向で、受けるだけじゃなくて発信していけると、しかもその発信が地球上どの地域も中心で、自らが主人公になっていけるということですね。


グーグル株式会社代表取締役社長 村上 憲郎と大分県知事 広瀬 勝貞の対談風景

グーグルの人づくりと政策県庁

広瀬 グーグルは世界中のあらゆる情報を取り入れて、そしてそれをユーザーのニーズに合うようにしていっておられるわけで、ハード面でも大変な技術ですし、またソフト面でもアイデアが非常に大事になってくると思います。きっとアイデアの湧き出る技術陣がたくさんいらっしゃるんでしょうね。

村上 おかげさまで極めて優秀な人の参画をいただいておりまして、効率よくソフトウエアも作っているということは言えると思います。
  今はインターネットの情報についてはある程度お褒めいただけるレベルの作業ができていると思いますが、これからはまだネットに乗り切れていない情報をどうしていくかという部分でアイデアを出していかないといけないんですね。私どもとしては、世界のあらゆる情報を整理して、インデックス化するということをお約束している(*3)ものですから。今、力を入れているのは先ほどの地図、それから動画、もう一つは書籍の情報なんですけれども。
  動画で言えば「ユーチューブ」というサイトがありまして、本来は皆さんが家庭で撮ったビデオなどを挙げていただくものだったんですが、残念ながら一部、テレビ番組を違法にコピーされてアップロードされている方もおられるんです。その対策をということで、動画のどこか一部分でもコピーがあったらコンピュータで自動的に探しだすというソフトを開発したりですね。
  あるいは書籍の方では全文検索ができるような仕組みを現在構築中でして、著作権が切れたものを中心に始めているんですが、昔の字体は今のものとはかなり違っているんです。それを全部検索可能にするには、まだまだいろいろソフトウエア上の知恵を出していかないと駄目なんですが、幸いうちのエンジニアはそういうチャレンジには非常に燃えていますので、そのうち全文検索もできるようになって喜んでいただけるだろうと思っております。
  いずれにしても優秀な人を集めるというのが一番重要なことで、そこに尽力をしています。

広瀬 そうやって、あれだけのシステムがさらに日々成長しているというのは楽しみですね。おっしゃられたように、優秀な人に働いてもらうということが一番大事なんでしょうが、さらにやる気を引き出すような工夫もあるんだそうですね。

村上 そうです。「20%ルール」と言っているんですけれども、自分のエネルギーというか、関心度のうちの20%は、自由にやりたいことをやりなさいというルールにしてあるんです。
  優秀な人を集めてモチベーションを維持していくというのは、納得づくとはいえ、会社のプロジェクトの「これが担当ですよ」という部分だけでは十分ではないんですね。優秀な人であればあるほど「こういうことをやってみたい」という思いを必ずお持ちなんで、それを十分満足させるというか、発揮してもらうのが、最終的には会社にとっても良い結果が出ると信じているんです。

広瀬 それはすごいですね。今は本当に大きく世の中が変わっているときですから、いろんな人がいろんな発想をして、そして対応をしてもらわなければいけないですよね。
  私ども行政の方も、こういう変化の時代ですから「政策県庁」(*4)を目指しているところです。もちろん大きな方向性はみんなで議論をするわけですけれども、それぞれのセクションで自分なりに情報を集めて、アイデアをまとめて、そしてそれを政策に反映させる努力をしてくれ、そうしないとこの変化の時代に我々は対応できないだろうと言っているんですけれども。

村上 行政というお仕事でもそういう感じをお持ちになられているとしたら、まさしくインターネットというのは毎日のように変化をしていっていて、まだまだ始まったばかりですから、グーグルの中核をなす若い人たちに会社の決め事ばかりをやっていただくよりは、自由な発想で20%全く白紙の上に勝手に絵を描きなさいという方が非常に大事だろうということですね。


ふるさと大分へエール
グーグル株式会社代表取締役社長 村上 憲郎と大分県知事 広瀬 勝貞の対談風景その2  

広瀬 村上さんは大分県は佐伯市のご出身だということで、同じ大分県人として我々も大変に誇らしく思います。私も日田市の出身でして、東京で仕事をしていて一区切りついたところで、ふるさとが非常に懐かしくなって帰ってきたんですが、村上さんにとってふるさと大分はどのようなものですか。

村上 そうですね。正直に申し上げて、田舎に息苦しさを感じて早く逃げ出したいというような気持ちで上京したような記憶もありますね。
  ただ、それから何十年か必死に仕事をしてきましたけども、ここへ来て地元で頑張っている方を振り返ると、また違った思いも出てきたんです。例えば、佐伯市の西嶋泰義市長は小・中学校の同級生なんですが、「のりちゃん、最近シカが出てきて困っているんだ」とか、厳しい財政の中でどう借金を返していくか「何か知恵を出してくれよ」とかいう話を聞きまして、それじゃみんなで何とか西嶋市長を盛り立てて、佐伯の将来のことを考えようか、みたいな流れの中で、自然とふるさとのためにという思いがわいてきまして。
  ですから、私が今やっている仕事の流れの中で、何かふるさと大分のお役に立つようなことができないかなと考えている今日この頃ですね。

広瀬 ありがとうございます。最後に、せっかくの機会ですからぜひ大分県の皆さんにエールを送っていただければと思います。

村上 これも私の仕事の流れの中でしか申し上げられませんけれども、インターネットというのは新しいチャンスだと思います。
  昔だと都会で勝負みたいなところは避けられなかったと思いますけれど、今は学問するのにも、ハーバード大学の授業も東京大学の授業もいろいろと公開され始めていますので、学ぶ気さえあればありとあらゆる情報が手に入るわけです。それと同時に、学んだ成果としてあるアイデアを掴んで、全国あるいは世界に向けて打って出ようとしても、それは本当に地方でできるんですね。
  これを我々は「デス・オブ・ディスタンス(距離の死)」と言うんですが、どこにいても世界に対して仕事ができるという良い時代が来たんです。
  もちろん、地方の状況はそれほど簡単じゃないよと、いろんなご苦労をされているということは私も存じておりますけれども、大分県の誇るいろんなものを全世界に発信するのは、大分からしかないわけです。そしてそれが以前よりはずっと簡単にできるチャンスの時代だと思いますので、ぜひ世界発信という観点から物事をもう一度見直してみられてはどうでしょうか。

広瀬 我々は世界の片隅にいるのではなくて、やり方によっては世界中の情報が得られるし、世界中に発信ができるということですね。

村上 グーグルアースで検索していただくと、もう大分は世界の中心にあるわけですから。地球上、どこでも平等ですからね。

広瀬 おっしゃるとおりですね。大変元気が出ました。ありがとうございました。 


グーグルアース
▲グーグルアース

*1 グーグルの検索技術と衛星航空写真、地図、地形や3Dモデルなを組み合わせて、世界中の地理空間情報を提供しているソフトウエア。

*2 インターネット上で消費者(利用者)によってつくられるメディアの総称。ブログやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)など。

*3 グーグルは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」を使命に掲げている。

*4 大分県では、地方分権や三位一体改革といった時代の流れを踏まえ、県民のニーズを的確に捉え、高い政策形成能力で応えていく「政策県庁」を目指している。



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