大分県庁のホームページ 『新時代おおいた』のバックナンバー
新時代おおいたVol.62 2009年 1月発行 新時代おおいたVol.62表紙
特集1 新春対談 宇宙飛行士 星出彰彦×大分県知事 広瀬勝貞
特集2 食の安全・安心を考える 〜前編〜
風紋 中期行財政運営ビジョン
トピックス
県民ひろば
心ひらいて
とよの国の食彩
県内の各世帯に配布(奇数月に発行)しています。 ご意見・ご感想をお聞かせください。
メール:
a10400@pref.oita.lg.jp



新春対談 宇宙飛行士星出彰彦×大分県知事広瀬勝貞

宇宙飛行士星出彰彦×大分県知事広瀬勝貞

初めての宇宙で

広瀬
   あけましておめでとうございます。今日は初春にふさわしい、夢の多いお客様をお迎えしています。
   宇宙飛行士の星出彰彦さんです。星出さんは昨年の6月にアメリカのスペースシャトル「ディスカバリー」で国際宇宙ステーションに行かれましたよね。

星出
   国際宇宙ステーションには15ヶ国が参加していますが、そのうちの日本が作っている部分を「きぼう」日本実験棟と言います。その中核となる船内実験室とロボットアームの二つをスペースシャトルに載せて、国際宇宙ステーションに取り付けてくることが私の任務でした。

広瀬
   夢にまで見た宇宙に出かけていったわけですが、印象を聞かせていただけますか。

「きぼう」日本実験棟の模型

星出
   宇宙から見た地球が非常に美しく力強く感じました。それから無重力ですね。宇宙に行って、国際宇宙ステーションやスペースシャトルの中でぷかぷか浮いて、あるところから違うところに飛んでいく楽しさ。この二つは本当に予想を上回るものでした。


子どもたちからの質問

広瀬
   大分県内各地に「少年少女発明クラブ」という組織があるんですが、ここの子どもたちから質問を預かってきましたので、答えていただけますか。
   まず、「宇宙では顔が丸くなるとか、背が伸びると聞いたことがあるんですが」という質問なんですが。

星出
   まず顔は丸くなります。地上にいると重力がありますので、体中の体液がどちらかというと下に引っ張られています。宇宙に行くと、それが逆に上がってくるような感覚で、顔がちょっとむくむ形になります。
   身長ですが、背骨の隙間がちょっと伸びることによって、若干高くなります。私は実際に測ってはいないんですが、一般的に数センチ、最大で5センチぐらい伸びるケースがあると聞いています。
   ただ地上に帰ってくると、また元に戻ってしまいますので、そのまま維持することは残念ながらできません。

広瀬
   もう一つ、「宇宙の暮らしの中で不便だなあと思ったことはありましたか」という質問もあります。

星出
   一番、地上はいいなと思ったのは、シャワーやお風呂です。宇宙では、髪は洗ってタオルで拭き取ったり、それから体もタオルに石けん水を染みこませて拭いて、別の乾いたタオルで拭き取るということはできるんですが、残念ながらシャワーとかお風呂とかいった水を大量に使うようなものは、現在ありません。水が飛び散ってしまって、たとえば装置の裏に入り込んで、ショートして火災を発生させてしまう、それが一番危険なんです。


宇宙飛行士になるまでの道のり

広瀬
   星出さんは3歳から7歳までアメリカにお住まいで、ワシントンのスミソニアン航空宇宙博物館やフロリダのNASAケネディー宇宙センターに行かれて、宇宙への夢を膨らませていったと伺いました。

星出
   まさにそれぐらいの時に、本物のロケットや宇宙服を見ることができたということ、それからちょうどSFの映画やアニメがはやり始めた頃で、見ていて「ああ、格好いいな。僕も宇宙に行ってみたいな」という思いが芽生えましたね。

広瀬
   子どもたちの夢を育むのに科学博物館などはとても良いという話をよく聞くんですが、星出さんにとってはどういうものだったんですか。

星出
   宇宙服や宇宙船、それからいろんな時代のロケットなどが展示されていましたので、宇宙に憧れを持っていた男の子にとっては、ものすごく新鮮な場でした。

広瀬
   帰国後は慶應義塾大学理工学部の機械工学科に進まれましたよね。聞くところによると、大学4年の時に宇宙飛行士の募集があって、果敢にチャレンジされたんだそうですね。

星出
   宇宙飛行士になるための受験資格として、実務経験3年以上、大学の卒業資格があります。もちろん大学4年生ですから、それらの資格すらなかったわけですが、「本当に宇宙飛行士になりたいのなら、そういう誠意を見せるべきではないか」と父に言われまして、「大学4年なんですが、受けられませんか」と募集係のところまで行って直談判したんです。もちろん係としては受験資格もない大学生で落とさざるを得ないから、やめておいたらどうですかと諭されまして、その時は断念しました。

宇宙飛行士 星出彰彦
1968年
東京都に生まれる
1992年
慶應義塾大学理工学部機械 工学科卒業
宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)入社
1999年2月
宇宙飛行士候補者に選抜される
2001年1月
宇宙飛行士として認定される
2008年6月
スペースシャトル「ディスカバリー号」によるミッションに参加
大分県知事 広瀬勝貞

広瀬
   それでもそうやって話をすると、自分もアピールできるし、また向こうからいろいろ情報も取れるし、それも一つのいい経験だったかもしれませんね。
   その後もチャレンジを続けたわけですよね。

星出
   私の場合、たとえ宇宙飛行士になれなかったとしても、宇宙開発には携わりたいということで宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)に入社しまして、最初はH2ロケットの開発業務に携わっていました。
   その後は宇宙飛行士を技術的に支援するポジションで仕事をしていまして、その間にまた宇宙飛行士の募集があったんです。もちろん応募して、最終選抜まで残ったんですが、その時には野口聡一宇宙飛行士が選ばれて、私は残念ながら不合格ということでした。

広瀬
   もう一度チャレンジをしたけれど、これもアウトになったと。しかし2回でやめるような星出さんではなかったわけですね。

星出
   三度目の正直で。98年に募集が始まって99年に選ばれました。

広瀬
   大したものですね。挫折を感じるようなこともあったんでしょうが、よくぞ仕留めたという感じで素晴らしいと思います。
   自分の夢を実現することができたのは、何が一番良かったんでしょうか。

星出
   やはり挫折を味わう度に、何が足りないのかな、次に受ける時にはどうすれば受かるんだろうということは考えました。
   何でも同じだと思うんですが、たとえばスポーツにしても、試合をして負けた時に自分を省みて、何が足りないんだろう、どこを強化すれば次は勝てるんだろうと考えながらやることが大事だと思いますね。


宇宙開発のこれから

広瀬
   ここからは宇宙開発の現状と展望について伺います。
   宇宙開発にはいろんな分野がありますが、一つは何と言っても、宇宙輸送システムですよね。日本でもH2Aロケットがいよいよできて、そろそろ世界のトップクラスに入りそうな雰囲気になってきたのではないですか。

星出
   H2Aロケットはおかげさまで打ち上げもずっと成功していまして、かなり信頼性も高いレベルを維持しています。実は今、次のH2Bロケットという、さらに機能を上げた物を開発中なんです。それは宇宙ステーションに関係していまして、宇宙ステーションに物資を補給する宇宙ステーション補給機というものを現在併せて開発しているんですが、それを打ち上げるためにはH2Aロケットではパワーが足りないということで、より強力なロケットを作っているところです。

広瀬
   なるほど、夢が広がりますね。
   実は今回、大分県と宇宙の関わりについて調べてみましたら、そのH2Aロケットの燃料である液体水素が、大分県でも作られているんです。それからロケットに燃料を送るパイプ、これは高い信頼性が必要だと思いますが、こちらもやはり大分県で作られていました。そういったことで我々も、何となく宇宙を身近に感じているところです。
   それにしても、今度のH2Bロケットの開発は、大変楽しみですね。

星出
   次から次へとチャレンジしていくことは、日本の技術力を維持していく上でも非常に大事だと思います。

広瀬
   そしてもう一つ、科学の分野もありますよね。今回のように実験棟を宇宙に打ち上げて、宇宙環境の中でしかできないような実験をしてみて、新しい物質を作り出すというようなことがあると思いますが。

星出
   そうですね。たとえば宇宙では重力がありませんから、タンパク質の結晶も非常に純度の高い物ができるんです。地上だとどうしても重力に邪魔されて多くはできません。宇宙だとより多くできますので、それを地上に持って帰ってきて研究をしていただくと、いろんな新しい薬の発見とか、そういったことにつながっていくのではないかというふうに考えています。

広瀬
   星出さんの取り付けていただいた実験棟から、将来、いろんな物質ができたり、薬ができたり、人類の救いとなるような発明や発見が出てくるかもしれませんね。

宇宙飛行士星出彰彦×大分県知事広瀬勝貞

若い人たちへのメッセージ

広瀬
   星出宇宙飛行士と宇宙をテーマにいろいろ夢や希望を語らせていただきましたが、やはり夢や希望を持つことが、それをかなえるための努力にもつながっていくし、厳しい試練に耐える力を付けてくれると思います。
   一方で、自分はなかなか夢が持てないと悩んでいる人もいると思いますが、自分なりの夢や希望を見つけるにはどうしたらいいとお考えですか。

星出
   いろんなことに興味を持ってチャレンジしていただくのがいいんじゃないかと思います。
   私もいろんな趣味をやってみたりしました。結果的にあまりのめり込むところまではいかないかもしれませんが、いろいろ試してみると、自分の好きなものが見つかるのではないでしょうか。

広瀬
   まずは何かしら興味、関心を持って、チャレンジしてみるということが大事ですよね。
   たとえば、せっかく学校へ行っているのだから、がむしゃらに勉強してみるのもいいかもしれない。とにかく部活をやってみるというのもいいかもしれない、あるいは友達と口角泡を飛ばして真剣に議論するというのもいいかもしれない。そうやっていると自分なりの夢とか関心事が見えてきて、それに向かって努力をするということにつながっていくわけですから、そういうことが大事ですよね。
   それから我々大人も、いろいろ工夫して子どもたちの心に火を付けて、夢や希望を持ってもらえるように後押しをしていくことも大事だと思います。
   それでは最後に、大分の若い人たちにメッセージをいただけますか。

星出
   私も4歳の時に宇宙に行きたいという思いを持ち始めてから、35年かかってようやく行けましたが、その間、たとえば受験がうまくいかなかったり、失恋をしたり、試合に負けて大泣きしたりと、いろんなことがありました。ただ、そういった壁というものは、学生時代、あるいは社会に出てからもあると思うんです。
   ですが、そこであきらめずに、もう一歩足を踏み出して欲しい。そうすることによって、やはり道が開けることもあると思うんです。だからあきらめずに、もう一歩頑張って欲しいなと思います。
   それから、これは宇宙飛行士に限ったことではないんですが、宇宙飛行士は一人では何もできないんです。宇宙飛行士の仲間や、地上にいる管制官、いろいろ教えてくれた訓練のインストラクター、物を作ってくれた開発者、現場の人たち、そういった本当に大きなチームの一員として活動しているにすぎません。現代社会の中で、やはり人間というのは一人では生きていけない。それはやはり理解をして、人とのつながりを大事にしていただきたいと思います。

広瀬
   本当にいいお話を伺わせていただきました。ありがとうございました。

(1月1日放送 TOS新春報道特別番組要旨)




【次へ】

大分県庁のホームページ 『新時代おおいた』のバックナンバー