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知事からのメッセージ 風紋 -「調印の階段」を読んで

印刷ページの表示 ページ番号:0001001797 更新日:2012年11月21日更新

「調印の階段」を読んで

大分県知事 広瀬勝貞

 大分県は杵築の人、重光 葵の伝記小説「調印の階段」を読みました。

 重光は、日本が満州事変から日中戦争そして太平洋戦争へと破局に向かう時代、中国、ソ連、英国で大使として活躍し、また、外務次官、大臣として外交を指揮しました。

 志四海-四海を志す、今流に言えばグローバルな視点ということでしょうか、これをモットーに外交官として精一杯の努力をします。随所に信念をもって、国内の納得を得、外国に説いて事を成し遂げる外交官の真骨頂が見られます。上海事変の際、邦人保護のために軍の出兵を要請し、事が鎮まるや撤兵を実現する責任感と手腕は見事です。降伏文書調印の翌日に、マッカーサーと渡り合い、ポツダム宣言を楯に軍政回避と天皇の戦争責任について堂々の議論をしたのは感慨深く読みました。

 しかし、痛感したのは、あの難しい時代に特に必要な国民的リーダーの不在です。諸々の情報をしっかり読んで、合理的な判断をし、力強く国を引っ張っていくリーダーが見当たらないのは、本当に不幸なことでした。

 例えば重光は、駐英大使として、英国がドイツの空爆をはねのけ、アメリカから支援をとりつけ、戦争の行方が反転しそうだという情報も送ったと思いますが、それでも日本は日独伊三国軍事同盟に走ってしまいます。国のため、国民のために責任をもって断固として事を進めるリーダーの不在です。

 それにしても、政治は何かの弾みで流れができた時に、始めは細く小さくともいつの間にか怒濤のような時代の流れになってしまいます。満州事変も日中戦争も、始め不拡大方針を打ち出しながら、結局だれも軍部を抑えられずに、ずるずると拡大してしまいます。だれもがアメリカと戦って勝てるはずはないと思いながらやめようと言い出せずに開戦に流されます。一旦大きな流れができてしまうと並大抵のリーダーではどうにも抗しきれなくなってしまうのではないかと思います。ここをどうするか、本書を読んでその思いが残ります。

 やはり大事なのは国民の英知ということかもしれません。国が行ってはならない方向に流れないように、何かそんな恐れがあったらできるだけ早くそれに気づき、抗う、それはやはり歴史を忘れず、歴史から学ぶ、国民の知恵かもしれません。

県政だより新時代おおいたvol.85 2012年11月発行