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特集1 人の暮らしを豊かにするスーパーコンピュータの可能性

印刷ページの表示 ページ番号:0003118411 更新日:2021年1月15日更新

特集 新春対談 人の暮らしを豊かにするスーパーコンピュータの可能性

理化学研究所計算科学研究センター石川 (ゆたか)  大分県知事 広瀬勝貞

知事と石川氏 富岳

広瀬知事  明けましておめでとうございます。 今年の新春対談は世界一のスーパーコンピュータ「富岳」の開発に携わった理化学研究所の石川裕プロジェクトリーダーにお話を伺います。

石川さん  新年明けましておめでとうございます。本日はよろしくお願いいたします。

広瀬知事  これが「富岳」ですね。

石川さん  そうです。432台のラックが並んでいて、この中には、パソコンの頭脳といわれているCPUが16万個弱搭載されています。

広瀬知事  現代の玉手箱がずらりと並んでいるようで非常に迫力を感じますね。

 

コンピュータとの出会い

広瀬知事  情報通信の分野では、残念ながら日本は後れを取っているといわれていますが、この分野の基礎的なインフラともいえるスーパーコンピュータは、自他共に認める世界一の実力ですよね。石川さんは、この世界一の富岳開発のプロジェクトリーダーを務められましたが、コンピュータに出会ったのはどういうきっかけですか。

石川さん  小学校5、6年生の頃、1972年頃でしょうか、従兄からコンピュータの雑誌をもらったのが最初です。
 その後、高校生の頃は学校の近くに当時30万円くらいするようなマイクロコンピュータ(以下、マイコン)が30分500円で使えるマイコンショップがあったので、授業が終わるとそこに行っていました。大学進学が決まるとアルバイトをしてマイコンを買って自分でソフトウェアを作ったり、大学に入ってからはアルバイトとしてソフトウェアの開発をしたりしていました。

広瀬知事  石川さんは、大学で電気工学を専攻され、通商産業省(以下、通産省。現在の経済産業省)の電子技術総合研究所(以下、電総研。現在の産業技術総合研究所)に入所し、働かれていたのですね。

石川さん  はい。電総研の先輩方は非常に優秀で研究の議論も活発にできて大変刺激的な環境でした。

広瀬知事  電総研でもコンピュータの研究をされていたのですか。

石川さん  大学時代からやっていた研究を継続していました。1992年からは、私にとって富岳プロジェクトの原点となる通産省の「リアルワールドコンピューティング」のプロジェクトに携わり研究開発を行いまた。

広瀬知事  私もその頃、通産省の機械情報産業局長をしていましたから「リアルワールドコンピューティング」のことは覚えています。これはその名のとおり、現実世界の人間の脳の機能をコンピュータで再現しようとするもので当時としては相当意欲的なプロジェクトでしたね。

石川さん  富岳開発の時に掲げた「使い勝手の良いスーパーコンピュータ」というのは、この時の研究コンセプトを思い出しながら決めたものです。

広瀬知事  研究の積み重ねが最先端のものに生きているのですね。

 

スーパーコンピュータ「富岳」誕生

広瀬知事  「富岳」とは、面白い名前ですね。

石川さん  これは公募の中から選ばれました。「富岳」は富士山の異名で、富士山の高さを性能の高さに見立て、裾野の広がりをユーザーに見立て、いろいろな応用に使えるということを表現しています。「富岳」という名前が、スーパーコンピュータそのものの性格を表現しています。

広瀬知事  まさに「名は体を表す」ですね。性能の高さという点で、「富岳」は計算が非常に速いそうですね。以前、世界一の座にあった「京」の100倍の速さといわれていますね。

石川さん  そうです。実際のものづくりの場面では、沢山計算をしないといけないのですが、計算のためのコンピュータが足りないといわれていました。これで少しは良くなると思います。

広瀬知事  石川さんはプロジェクトリーダーとして富岳開発にあたられたわけですが、たくさんの人が集まる中で、議論をしたり方向性をまとめたりするのは大変だったのではないですか。

石川さん  プロジェクトが始まって開発企業と議論しているうちに、使っている言葉、すなわち用語の使われ方や意味がちょっと違っていて話が通じないことに気づきました。そこで、用語について改めて定義して共有することにしました。価値観を共有するための大前提として、使っている言葉の意味の共有が大事だと感じました。

広瀬知事  世界最先端、誰も行ったことのない世界を切り開くというのは本当に大変なことですね。
 先日、石川さんが雑誌のインタビューか何かで「ボスとリーダー」の違いについて語られている記事を拝見しました。

石川さん  私が思うボスは、上下関係の上に立っている者が下の者に対して命令する、出来ないと叱責する、そういう人だと思っています。一方リーダーというのは、役職的には上下関係があったとしても一緒に仕事している人は、仲間・同僚であり、一緒に問題解決をしていくものだと考えています。
 「富岳」の開発では本当に多くのことを決め、開発作業を進めていかなければなりませんでした。13あるグループの進捗管理をしていましたが、もし、私がボスのようにふるまっていたら進捗具合を本音で報告されていなかったのではないかと思っています。

 

富岳のポテンシャル

広瀬知事  昨年は世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るい、日本も大変でした。テレビの解説などで、飲食時の飛沫の拡散状況や座る位置で飛沫の浴び方が大きく変わる様子を映像で見ますが、あれは「富岳」を使って解析しているのですね。

石川さん  飛沫のシミュレーションは自動車のボディやエンジンの設計のためのシミュレーション技術を応用したものです。飛沫具合がどう変わるかというシミュレーションが迅速にできたのは、長年の研究成果があったからだと思っています。その他、ワクチンの研究にも「富岳」を使ってます。

広瀬知事   宇宙産業の開発など、ものづくりの世界でも威力を発揮するのでしょうね。

石川さん  「京」の時に、飛行機の設計に使われるということがあったかと思います。「富岳」も同じように、ロケットや飛行機、そういった設計に使われていく可能性はあると思います。

広瀬知事   人間の未来にとって、非常に大きな役割を果たしているのですね。

知事 石川氏

先端技術への挑戦と大分県の未来

広瀬知事   石川さんは子どもの頃、ものづくりに興味があったそうですね。

石川さん   父の影響で家には部品や道具がそろっていたので、自分でラジオを組み立てたり、木材を買ってきて工作したりしていました。木材から作るというのは、自分で部品一つ一つの形を決めて切り出すところからやらないといけないので、創造力が刺激されワクワクするものでしたね。

広瀬知事   子どもの頃の経験は良い刺激になりますよね。
 昨年2月、姫島村の小・中学校で、遠隔操作ロボット「アバター」を使って、東京国立博物館を見学するという遠隔授業を行いました。先端技術に触れて感動すると、それをベースに前に進む、子どもたちにはそんな力があるんじゃないかなと期待したいですね。
 教育の面でもそうですが、大分県では産業の面でも先端技術を活用して地域課題を解決するとか、新しい産業を作り出すとか、そういう取組を大いにやっていこうと思っています。

石川さん  大分県ではドローンの取組が盛んなようですね。

広瀬知事  そうなんです。ドローンは地域の輸送手段として活躍が期待されています。ドローンがこれだけ普及してきますと、いかに安全に運転するかということが非常に重要な課題になるわけです。大分県はドローンの研究が進んでいまして、県内の民間企業と県の研究所が一緒になって安全性と安定性を検証する「ドローンアナライザー」を作りました。昨年は、国の研究機関にも納入いたしまして、今後のドローンの安定的な運航に役立つのではないかなと思っています。
 スーパーコンピュータができ、そこから、また新しい技術が生まれ、我々は世の中をよりよくするためにその技術を使っていく。そういう流れが非常に楽しみになってきますね。

石川さん  今回2期にわたって「富岳」は世界一の性能を有しているということが認められたわけです。ご存じのとおり新型コロナウイルス感染症対策についても、まだ開発途中ではありますが、成果を上げているということで、非常にうれしく思っております。
 「富岳」は一部の研究者の物ではありません。大分県産業界の皆さんにも「富岳」を使ってもらい研究開発を加速していただけたらと思っています。

広瀬知事  未来を担う子どもたちや若者にメッセージをいただけますか。

石川さん  私は子ども時代、人類が月に着陸したとか、日本で心臓移植手術が行われたとか見聞きする度、技術革新が起きているなと感じ、自分が大人になる頃、世の中はどうなっているのだろうと夢見ていました。今は、情報技術が非常に革新的に進んでいますが、そういうものを身近に感じながら、将来を夢見て想像力を磨いて欲しいなと思います。

広瀬知事  若い人こそ想像力をたくましくして、夢を育て、チャレンジしていくことが大事ですね。今日は壮大なお話をありがとうございました。

石川さん  ありがとうございました。


*スーパーコンピュータ「富岳」とは
 現代社会が抱えるさまざまな課題(自然災害や新型コロナウイルス感染症など)を解決することやビッグデータ、AIなど幅広い分野での活用を目的に開発されたもの。
 計算性能やユーザーの利便性・使い勝手の良さなど総合力において、世界最高レベルのスーパーコンピュータとして2021年度の共用開始を開始を目指している。
 昨年、計算速度などを競う世界ランキングで2期連続1位を獲得した。